研究課題/領域番号 |
21J21262
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
加藤 留偉 東京工業大学, 情報理工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 非線形システム / 安定性理論 / 消散性理論 / アトラクタ次元 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,不確かな環境における大規模システムのダイナミクスを解析することである.本年度は,非線形システムのアトラクタ次元を推定するDouady-Oesterleの定理に着目し,一つの理論的枠組みを構築することに成功した.具体的には以下の手順で理論を構築した. (1)非線形システムを線形化し,Lyapunov不等式からアトラクタ次元の推定値を導出した.この結果は,制御理論分野ではあまり知られていないSmithの結果を拡張し,保守性を低減化したものである. (2)非線形システムの入出力を陽に考慮し,制御理論分野のWillemsの消散不等式による特徴づけを行った. (3)複数のサブシステムから構成される大規模なシステムを考え,各サブシステムの入出力特性とサブシステム間の相互接続構造から全体システムのアトラクタ次元の推定値を導出した.とくに,ヤコビ行列のトレースを用いることで,各サブシステムの解析結果からモジュラ的に次元を推定できる結果となっている.
この結果は7月に開催予定のIFAC World Congressにて発表予定である.本結果は,安定性解析の手法として近年注目されているContraction理論の拡張になっている点で興味深いものである.また,上記(2)の消散不等式は,不安定システムの入出力特性を特徴づける一つのアプローチとなっている点で重要である.これにより,不安定な入出力システムを含むネットワークの解析が可能になった.未解決な課題として,アトラクタの複雑さが相互接続によって低減する仕組みを明らかにすることが挙げられる.今後はこの問題の解決とともに,得られた理論をネットワークの制御・推定問題へと応用することを検討していく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は一つの理論的枠組みを構築した点で大きな進捗があった.当初の計画では,不確かさを考慮したアトラクタの安定性解析とそのマルチスケール解析への発展を考えていたが,おおむね計画通りの結果が得られている.とくに,計画にはなかったDouady-Oesterleの定理を新たに発見したことで大きく研究が進んだ.また,当初は入力状態安定性に基づいて理論構築を行う予定であったが,より一般的な消散性に基づいた枠組みを構築できた.さらに,投稿した国際会議の査読者からも好意的な意見が得られており,研究は順調に進んでいると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後は理論と応用の双方の視点から研究を進めていく.理論面では,7月に開催予定の国際会議において,海外の研究者との意見交換が見込める.可能であれば,共同研究へと発展させていきたい.一方,現段階では遺伝子ネットワークへの応用に関して,具体的な結果が得られていない.そこで応用面として,アトラクタの安定性とアトラクタの可制御性の関係性から遺伝子ネットワークの制御問題を検討していく.
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