まず昨年度の続きで、クエンチ能を示すナノ抗体のアミノ酸配列を次世代シーケンス解析した結果、Trp残基の部位特異的な濃縮が確認された。そこで、さらにタンパク質言語モデルを用いて、アミノ酸配列のみからクエンチの有無を予測する機械学習モデルを作成した結果、CDR1とCDR3の配列を用いた場合に予測精度が高まることが分かった。したがって、作製したモデルを用いて、2種類のSARS-CoV-2を認識するナノ抗体のクエンチ能を向上させる変異を予測し、それに基づいた変異導入を行った結果、クエンチ能の向上させることに成功し、抗原結合能を維持していた変異体については蛍光応答も向上した。 次に抗体のC末端に多量体構造を形成するペプチドを付加することで、Q-bodyのさらなる感度向上を試みた。その結果、二量体を形成するペプチドを付加したときに最もクエンチ能が向上した。さらにこれがH-dimerを形成することに起因していることを突き止め、これまで蛍光応答をほとんど示さなかったガン抗原を認識するナノ抗体に応用した結果、蛍光応答を向上させることに成功した。 さらに昨年度の続きで、細胞内で持続的なランダム変異導入を行える酵母「AHEAD」の実験系の確立を試みた。本年度においては、まず一変異によってクエンチ能が向上するナノ抗体を選別し、それをコントロールとして実験条件を検討した。その後、発見した最適な条件を複数のナノ抗体に適用したところ、まったくクエンチ能を示さなかったヒト血清アルブミン認識ナノ抗体について、クエンチ能の分子進化が達成された。 以上から、予測に基づいた変異導入によって、SARS-CoV-2を認識する新規のQ-body構築に成功し、さらに多量体化やランダム変異導入によって、さらなる蛍光応答の向上が見込めることが確かめられた。
|