研究課題
本来の目的である、光触媒と高圧によりメタンからC2+を生成するという目的を果たす前に、光触媒は温度によって大きく変化することがわかり、本年度は温度依存性を調べることに徹した。具体的には、(1)光触媒のため回転ディスク電極の結果の解釈をするための理論の構築、(2)光電気化学法及びポンププローブ分光法を用いて温度依存性の調査を行った。(1)については、昨年度実験を行っていたが、電気化学にはない光触媒特有のトレンドについて十分な解釈ができずにいた。そこで、光触媒において励起キャリアの寿命が効くことを仮定して理論を組み立てた。その結果、実験結果をよく再現する曲線が得られた。また、励起寿命を仮想的に変化させても合理的だという結果が得られた。本成果は、光触媒の表面正孔の再結合を評価をする新しい手法として提案される。この結果を用いて光触媒の温度依存性の解釈も行った。遺伝的アルゴリズムを用いることにより各パラメータがフィッティングされた。ただ、フィッティングはさらに改善の余地があり、来年度の課題となった。(2)反応温度の変化は励起キャリアの動力学に影響を与えると考え、酸化チタンについて光電気化学とポンププローブ分光法を用いて調査した。空間電荷層に蓄積する励起キャリアの量をモニタリングしながら消光時の過渡的な電流の分析を行った。表面蓄積正孔は一定電圧まで再結合が起こりそれを超えると止まること、正孔の反応と再結合が競合している領域の方が温度依存性が大きいこと、正孔の反応のみが起こっている領域では反応速度に対して正孔供給が足りず表面正孔が枯渇することがわかった。これらの知見は光触媒を理解し、材料設計・反応条件最適化・メカニズムの解釈に役立つと考える。
3: やや遅れている
目的がメタンのC2+への変換であり一定程度の変換は確認されたが、最適化が進んでいるわけではない。それ以前に温度依存性を調べる必要があると判断し、そちらに注力したためやや遅れているを選択した。しかし、より一般的な光触媒全体の温度依存性について議論することができた。印加電圧を制御し表面蓄積電荷の再結合が止まることを確認した。電位をかけない粉末系や薄膜系の光触媒では表面蓄積電荷の再結合が酸化還元反応と競合しており、酸化還元反応の温度依存性が大きいために全体の反応の温度依存性が大きいことがわかった。また、回転ディスク電極法という電気化学にしか用いられてこなかった手法を光電気化学で用いた際に特有に出現するトレンドを説明する新たな理論を構築した。これまで評価することのできなかった表面正孔の再結合が評価できることに加え、光量と反応基質の濃度比などが議論でき、一般の光触媒反応に対する貢献ができたと考えている。
メタンのC2+への変換の前に温度依存性を理解する必要があるので、引き続き温度依存性について調べる。具体的には、(1)光触媒のための回転ディスク電極法の完成、(2)温度を制御した状態で強度変調光電流分光法を行う。(1)光触媒のための回転ディスク電極法の理論は昨年概ね完成させたが、実験結果をフィッティングする際にうまく収束しないことがある。具体的には、パラメータが多いため局所最適解に陥ってしまうのである。そこで、局所解に陥りにくい手法を用いて安定的に最適化する手法を探索する。(2)光触媒の反応温度を調べる最終ステップとして「電気化学インピーダンス法」と「強度変調光電流分光法」を用いる。これら二つは、それぞれ電位と光電流を正弦波に従うように変化させた際の光電流の遅れを調べたもので等価回路を作ることにより定量的な議論ができると考える。この理解は光触媒一般の温度依存性の理解に繋がり、メタン変換の根幹的な知見となると考えられる。
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