約3.5億年前、一部の魚が陸上へと進出した。水中から陸上へと大きく異なる環境への適応が起きたにもかかわらず、化石記録から得られる情報は限定的である。本研究では古くからの硬骨魚類の形質を残す現生魚類を用い、陸上適応の遺伝的基盤の理解を目的としている。 水中で呼吸する魚においてエラは必須であるが、陸上進出に伴って消失していった。本研究では肺呼吸とエラ呼吸が両方可能な現生種、ポリプテルスに着目した。中でも陸上環境における恒常性維持機構に着目した。陸上環境においてはエラを通じた塩類の摂取やアンモニアの排泄が制限される。そこで、陸上飼育したポリプテルスが体内の塩類などの恒常性維持をどのように行っているかをRNA-seq解析や血液成分分析などを用いて明らかにした。まずポリプテルスが陸上環境においても血中の浸透圧やアンモニア濃度を維持していることを明らかにした。次に腎臓、肝臓、エラのRNA-seq解析を行った。腎臓において、ナトリウムを再吸収する機能が知られる上皮性ナトリウムチャネルの発現量が有意に増加していた。またアンモニアを尿中へ排泄するトランスポータの遺伝子発現量が有意に増加していた。このことから、ポリプテルスは陸上でエラからアンモニアを排泄する代わりにアンモニアを尿中へと排泄する戦略を取っていると考えられる。 両生類に最も近い魚であるハイギョと、ハゼなどの陸上に二次的に適応した種のケラチン遺伝子の解析を実施した。ハイギョにおいては両生類のケラチン遺伝子数に匹敵するほどのケラチン遺伝子の重複が見られたが、両生類のケラチンとは独立に重複したものであることが明らかになった。また、陸生ハゼでは近縁種の水棲ハゼと比べても変化はなかった。ケラチン遺伝子の大幅な重複は四肢動物に近い魚において繰り返し独立に起きたものと推察される。研究成果はGenes & Genetic Systemsに掲載された。
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