研究課題/領域番号 |
21J22287
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野上 純太郎 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 有機合成化学 / 構造有機化学 / 不斉合成 / 環状π共役分子 / カーボンナノベルト / アルキン / 芳香環構築反応 / キラリティー |
研究実績の概要 |
本研究は新規キラル環状π共役分子の触媒的不斉合成および機能創発を目的としている。キラル環状π共役分子は、ユニークな構造や複雑な異性化挙動、優れた円偏光発光特性が注目されるが、高度に歪んだ炭素骨格にキラリティーを持たせることは極めて難しい。そのため環状π共役分子の代表例ともいえるシクロパラフェニレンでは、面不斉や軸不斉の導入が少数ながら報告されていたものの、安定ならせん不斉を持つものは知られていなかった。また面不斉を持つキラル型カーボンナノベルトについても1例しか報告例がなく、不斉合成法も確立していなかった。 本年度代表者らは、カチオン性ロジウム(I)/軸不斉ビアリールビスホスフィン錯体触媒を用いた[2+2+2]付加環化反応により、らせん不斉を有するヘリカルシクロパラフェニレンおよびナフタレン含有ベルト型シクロフェニレン類の触媒的不斉合成に成功した。さらに、これらの合成された環状π共役分子の結晶構造、電子構造、光学特性、およびキロプティカル特性を明らかにした。ヘリカルシクロパラフェニレンの不斉合成では、複数のS字型オキサヘリセンを環状連結させた構造を実現し、シクロパラフェニレンに世界で初めて安定ならせん不斉を導入することに成功した。キラル配位子の検討によって不斉収率は最大>99% eeまで向上し、本触媒による完璧な不斉制御に成功した。また対称的に配置されたらせん不斉が良好な円偏光発光特性の発現につながることを、実験と量子化学計算により見出した。続くナフタレン含有ベルト型シクロフェニレン類の合成では、シクロフェナセン類縁体のボトムアップ合成およびキラル型ベルト分子の不斉合成の両方を世界で初めて成功した。また蛍光特性、キラル光学特性の解析および量子化学計算を用いた反応機構解析まで幅広く知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度達成したマルチヘリセン含有シクロパラフェニレンの合成では、安定ならせん不斉を持つ筒状キラル共役分子を世界で初めて合成することに成功した。本成果は研究計画の根幹である新規環状π共役分子の創成という観点に照らして、研究を大きく進展させるものである。また、ナフタレン含有ベルト型シクロフェニレン類の合成では、四半世紀にわたって難攻不落であったシクロフェナセンが合成対象であったことから長時間を要すると考えていたが、本年度内に酸素含有類縁体として合成することができた。さらに広範な基質検討を続けた結果、研究発足時には計画していなかったキラル型ベルト分子の不斉合成も同時に達成し、論文掲載まで完遂することができた。よって以上の成果は、計画よりも大幅に早く研究を進展させたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はマルチヘリセン含有シクロパラフェニレンとナフタレン含有ベルト型シクロフェニレン類の合成に成功したことで、キラル環状π共役分子およびベルト型π共役分子の合成的知見を広く得ることができた。今後は、このようにして見出した不斉芳香環構築反応を軸に、さらなる新規キラル環状π共役分子の触媒的不斉合成をおこない、同触媒の有用性を広げることを計画している。また合成した新規π共役分子のキラル光学特性を詳細に解析するとともに、量子化学計算を用いて構造物性相関を明らかにすることで物性向上をはかる。
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