扁球状芳香環カプセルの、単糖内包によるらせんキラリティー制御を達成した。これまでに、オルトフェニレン鎖で架橋したビスピリジン配位子とパラジウムイオンからなる扁球状の分子カプセルを構築し、有機溶媒中における平面およびお椀型分子に対する特異な内包能を明らかにしてきた。このカプセルは配位子のねじれによるらせんキラリティーを有するが、これまではラセミ体として用いていた。そこで昨年度は、キラルなゲスト分子を内包することで、カプセルのキラリティー制御を目指した。 まず、カプセルの水溶化を目指してアンモニウム側鎖を有する新規なオルト架橋配位子を合成した。得られた配位子とパラジウムイオンを自己集合させることで、水溶性の扁球状分子カプセルが定量的に形成した。この水溶性カプセルとペンタメチル化α/β-グルコースを水中で混合したところ、β-グルコース誘導体が80%以上の選択性で内包された。同様に種々の単糖誘導体について競争実験を行うことで、扁球状カプセルは、置換位置にかかわらず、エクアトリアル位にメトキシ基を有する単糖を選択的に内包することが明らかになった。カプセルの扁球状の芳香環空間と平面的なゲスト分子の形状適合性によるものと考えられる。 最も良く内包されたβ-グルコースの内包体では、カプセルのらせんキラリティーはほとんど偏りが見られなかった。一方で、α-グルコース内包体では、カプセルのらせんの向きは一方に100%偏ることが1H NMRとCDスペクトルから明らかになった。TD-DFT計算で内包体のCDスペクトルを予想することで、α-グルコース内包体のカプセル骨格は(P)-ヘリシティーを有すると考えられる。同様のらせん制御は、ガラクトース誘導体でも観測された。興味深いことに、β-ガラクトースは、α-グルコース誘導体とは対照的に、カプセルの(M)-ヘリシティーを誘起することが明らかになった。
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