研究実績の概要 |
本年度は3つの論文をarXivにて公開し, 学術誌への投稿をおこなった. 一つ目は, 特異インスタントンFloer理論を用いて構成される, s#不変量とよばれる結び目不変量に対して, コンタクト構造と関係した下界を与えた, というものである. 特異インスタントン理論とコンタクト幾何学の接点を見出した研究は私の知る限り史上初である. 二つ目は, ランク3インスタントンに関する, A. Daemi氏(セントルイスワシントン大学), C. Scaduto氏(マイアミ大学)との共同研究である. これまで, インスタントン理論はトポロジーに盛んに応用されてきたが, 高階インスタントンが真に新しいトポロジーへの応用を与えたのは, 著者たちの知る限り史上初である. また, ランク3版Donaldson不変量の構造定理を証明し, 物理学の高階版Witten予想に対する部分的な結果を与えた. この点で, トポロジーにおいてだけでなく数理物理的にも重要な意義を持つ研究である. 三つ目は, 同変Seiberg-Witten理論と横断的結び目に関する, 谷口正樹(京都大学)との共同研究である. 私が共同研究者とともに構成, 研究してきた, ホモトピカルなコンタクト不変量を, 同変Seiberg-Witten理論の文脈で活用することで, 新たなスライス-トーラス不変量q_Mを見出した. これにより特に, Milnor予想の再証明が与えられる. 他にもシンプレクティック, コンタクト幾何学やトポロジーに関するさまざまな新しい結果が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高階インスタントン, 同変Seiberg-Witten理論の二つの論文は, 私と共同研究者の数年にわたる研究が実を結んだものであり, 研究開始当初の予想を遥かに超える成果が得られた. これらの研究をついに完成, 発表できたため, 本研究は計画以上に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
高階インスタントンに関しては, 本年度までにランク3の場合を詳しく研究したが, 今後はこれを一般のランクに拡張することに取り組みたい. また, 数理物理的な側面についても理解を深め, 新しい方向性を探求したい. 同変Seiberg-Witten理論については, 本年度は, Z/2同変理論を中心に研究したが, 奇素数pに対するZ/p同変理論も展開できる見通しがあるため, 今後はこれを展開したい.
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