本研究は、芳香族化合物を脱却した分子設計により、低分子医薬品のケミカルスペースの拡大を目的とした。従来の低分子医薬品は、芳香族化合物を母骨格として開発されてきており、その構造は直線的で平面的なものに偏っている。分子の構造的特徴の偏りは、低分子医薬品の創薬標的を酵素や受容体に制限する一因となっている。タンパク質間相互作用を始めとする新たな創薬標的に対する低分子医薬品の開発を目指すため、より三次元性の高い骨格に基づく分子設計が求められる。三次元性の高い骨格の中でも、架橋構造をもつ籠型骨格は、分子の立体配座が固定されることで標的選択的な分子設計が期待でき、特に医薬品設計において有用であると考えられる。また、オキソピペラジン骨格は多様な天然物に含まれることから、生物活性分子の創出に有用であるが、その籠型骨格については、医薬品設計への応用が十分に検討されていない。本研究では、籠型のオキソピペラジン骨格を新たに開発し、ペプチド模倣分子の設計へと応用することで、低分子タンパク質間阻害剤の開発を目指した。 本年度においては、医薬品開発に有用な籠型オキソピペラジン骨格の開発を目指した。医薬品開発においては、母骨格構造を固定し、部分構造を改変していくことで、活性や物性の改善を図る。そこで、三つの置換基の導入を可能にする籠型オキソピペラジン骨格の開発に取り組んだ。開発した籠型骨格は、アミノ酸を出発原料とすることで不斉合成が達成された。そして、得られた籠型骨格に、アミノ酸側鎖を模倣した置換基構造を導入することで、ペプチド模倣分子の設計を行った。しかしながら、設計したペプチド模倣分子は、顕著な生物活性を示さなかったことから、さらなる構造変換が要求される。
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