生物とは、数多の分子により構成された複雑な分子集合体であり、外界から取り込んだエネルギー源を消費しながら自身の構造をダイナミックに変化させている。このような自律性を有する分子システムを人工系で構築することは、生命起源に迫るための答えの一端をも与え得る。しかし、細胞を最小の生命単位として定義する上で重要となる、「細胞膜による生体分子の囲い込み」という要素を取り入れた、「閉じたミクロ空間における自律的分子集合体システム」の構築は未だに成し遂げられていない。膜を介して「エネルギー源」となる物質を輸送する手段を確立することで上記の問題を解決し、人工分子を用いた「閉じたミクロ空間における自律的分子集合体システム」を実現することが可能になると考えた。本研究では、生体内において普遍的なエネルギー通貨としての役割を担うATPを輸送対象とした人工ATPトランスポーターを創製することで、細胞を模した自律的分子集合体システム、「アクティブミクロ空間の構築」を目指した。 その一方で、これまでの研究で開発し、人工ATPトランスポーターの構造のモチーフとしていた人工アニオン輸送体分子が、有機金属錯体の配位子となる部分構造を有していることに着目し、それを用いて新たに交互両親媒性触媒分子を合成した。その機能を精査したところ、この触媒分子が水系環境下において液滴を形成すると同時に、触媒活性を有することが明らかとなった。このような化学反応を担う分子集合体の構築は、生体系を模倣したエネルギー変換システムの構築へつながると期待している。
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