東アフリカの三大湖に生息する熱帯魚シクリッドは顕著な適応放散によって多種多様な種に分化したことで知られる。従来、シクリッドの体色や視覚の多様性に着目した研究が多く行われてきたが、本研究ではこれまで見過ごされてきた嗅覚の多様性に着目した。東アフリカンのシクリッドは魚類のフェロモン受容体候補V1R2遺伝子に関して、2種類の大きく配列の異なるアリル(cladeⅠ、cladeⅡ)を持つ。本研究ではc-fosのin situ hybridizationを用いてアリル間のリガンド選択性の違いを検証した。その結果、祖先型であるcladeⅠ型V1R2受容体は、ベンゼン骨格にヒドロキシ基とカルボキシ基を持つ化合物、特に3-ヒドロキシフェニル酢酸などを広範囲に受容する一方で、派生型のcladeⅡ型V1R2受容体は2-ヒドロキシフェニル酢酸(2HPAA)に特化していた。さらにシクリッドから尿を採取する方法を確立し、尿中物質にV1R2受容体が応答すること、またcladeⅠ型の尿に3HPAAが高濃度で存在することを明らかにし、3HPAAがV1R2受容体のリガンドであることを示唆した。 また本研究では魚類の摂食行動に関連する受容体V2R遺伝子にも着目した。東アフリカのシクリッドでは複数のV2Rサブファミリーが系統独立的にコピー数拡大していることが知られている。このコピー数拡大が受容可能なリガンドの増加に寄与していることを検証するため、コピー数拡大したサブファミリーの一つ、サブファミリー16に着目してアミノ酸に対する応答を検証した。その結果、サブファミリー16がアルギニンに応答し、サブファミリー16の各コピー間でアルギニン受容能に差があることを明らかにし、サブファミリー16でリガンド分化が生じていることを示唆した。
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