研究課題
ペプチドの自己組織化機構の理解は、生命科学および材料科学の分野にとって極めて重要な課題であり、これによって新しい材料の開発に発展する可能性がある。これまでに、アルツハイマー病の原因として知られるA-βペプチド、肌を構成するコラーゲン、筋肉の伸縮運動を司るアクチンフィラメント、血糖値を調節するインスリンなど、多くの生体分子の自己組織化機構が研究されてきた。中でも、アミロイドβペプチドの研究では、複数のアミロイドβ配列からのフラグメント分子の結晶化および構造解析によって、ペプチドの結晶構造を対称性に基づいて分類し一定の規則性を見出そういう試みがなされてきた。しかしながら、これらのペプチドが形成する結晶構造とアミノ酸配列との間の普遍的な関係は、未だ完全には解明されていない。本研究では、比較的短い残基数を持つテトラペプチドを用いて、ペプチドの自己組織化プロセスを理解することを目的とした。フェニルアラニンとグルタミン酸を含むテトラペプチドの配列を異なる順序で設計し、それらの結晶化を試みた。これより、水素結合ネットワークが部分的にβシート状の構造を形成することにより、ペプチド結晶の成長が促進されることが示された。さらに、ペプチドのアミド結合中のN-Hが、向い合うアミド結合のC=Oと水素結合を形成するだけでなく、グルタミン酸のC=Oとも水素結合を形成し、結果的に分岐した水素結合を形成していることが分かった。これらの結果は、第一原理計算および量子化学計算を用いてさらに検証され、分子レベルでの分子間相互作用の詳細が明らかになった。また、テトラペプチド中のフェニルアラニンとグルタミン酸の配列組み合わせを変えた3種類のペプチドFEFE、FEEF、FFEEを設計・合成し、結晶化を試みたところ、アミノ酸の配列によって全く異なる水素結合ネットワークや分子間相互作用の様式を形成することが明らかとなった。
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Cryst. Growth Des.
巻: 23 ページ: 4556,4561
10.1021/acs.cgd.3c00302