研究課題/領域番号 |
22J20672
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大見 拓也 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 有機-無機ハイブリッドペロブスカイト / 結晶構造 / 単結晶 / 欠陥オーダー / 次元制御 / チオシアネート / 安定性 / ペロブスカイト太陽電池 |
研究実績の概要 |
α-FAPbI3(FA=CH(NH2)2)はバンドギャップエネルギーが1.55 eVと小さく、ペロブスカイト太陽電池の高効率化を志向した材料研究において大きな注目を集めている。しかし、α相は室温で準安定であり、バンドギャップの大きなδ相への経時相転移が応用上の問題となっている。これまでに我々は、α-FAPbI3のアニオンを擬ハロゲンの一つであるチオシアン酸イオン(SCN-)に一部置換した化合物の合成に取り組んできた。最近別の研究グループから、α-FAPbI3薄膜に対してSCN-を含む蒸気で気相処理を施すことで、α相が安定化し太陽光発電効率が向上することが報告された。α相の安定化に向けSCN-が注目を集める一方で、SCN-置換FAPbI3は未だ同定されておらず、詳細な安定化メカニズムは未解明であった。 本年度は、SCN-置換FAPbI3の単結晶を用いたX線構造解析に成功し、その詳細な結晶構造を決定することができた。また放射光を用いた温度変化XRD測定の結果から、発見された新規物質が準安定相を安定化させる効果があることを明らかにした。結晶構造解析と温度変化X線回折の結果から、SCN-置換FAPbI3がもたらす安定化効果のメカニズムを解明する手掛かりとなる重要な知見を得ることができた。 加えて、異なる量の擬ハロゲン添加により他の新規化合物の合成にも成功した。周囲の水分環境を駆動力とした室温における構造相転移を見出し、粉末・単結晶試料を用いて転移挙動の観察を行った。単結晶を用いた結晶構造解析にも取り組んでおり、擬ハロゲンを用いた結晶構造の制御に向けて大きく前進することができた。 また、高圧環境を活用した合成実験により新しい有機-無機ハイブリッドペロブスカイトを発見した。新規高圧相の結晶構造が明らかになってきており、高圧環境を活用したハイブリッドペロブスカイト開発の第一歩を踏み出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、当初の計画通り単結晶を用いたX線構造解析によってSCN-置換FAPbI3の詳細な結晶構造を決定することができた。また放射光を用いた温度変化XRD測定の結果から、発見された新規物質が準安定なα相をより低温において安定化させる効果があることを明らかにした。これらの結果はFAPbI3へのSCN-添加がもたらすα相安定化機構の考察に結びつく成果となったことから、当初の研究目標を達成することができたと考えている。 それに加えて、擬ハロゲンの添加量を変化させることにより、異なる結晶構造を持った新規化合物を合成することができた。本化合物の発見は次年度以降の研究においてさらなる展開が期待でき、擬ハロゲンを用いた結晶構造の制御に向けて大きく前進することができた。 また、高圧下での合成実験でも有機-無機ハイブリッドペロブスカイト化合物の新規高圧相を発見することができ、高圧科学を活用したハイブリッドペロブスカイト開発の第一歩を踏み出すことができた。 SCN-添加FAPbI3の研究を計画通りに遂行できたことに加え、次年度以降へとつながる発展性を秘めた成果が得られたことから、当初の計画以上に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度におけるSCN-置換FAPbI3の結晶構造解析から、本物質はペロブスカイト骨格の一部が一次元的に欠損した結晶構造を持つことが明らかとなった。また、組成を変えて合成を行ったところ二次元的な欠陥構造を持つ化合物も発見した。これらの結果を踏まえて我々は、擬ハロゲンによりペロブスカイト骨格の次元性を制御した、体系的な物質探索を展開することができると見込んでいる。 次年度では、新たに得られた低次元ペロブスカイトの精密な結晶構造の決定を目指す。加えて、擬ハロゲンの組成量により結晶構造がどのような変化を示すのかを系統的に明らかにする。 これらの目的を達成するため、まずは二次元ペロブスカイト物質の単結晶を溶液法により合成する。得られた単結晶を用いて、放射光を活用した単結晶X線構造解析に取り組み、二次元ペロブスカイト構造を精密に決定する。また、擬ハロゲン仕込み量を系統的に変化させた試料を合成し、XRDにより結晶構造の変化を追跡する。また、本化合物系の薄膜合成を行い、光触媒性能や太陽電池性能を評価する。評価の結果に対しては、結晶構造と結び付けて考察をし、擬ハロゲンを含むハイブリッドペロブスカイト化合物の機能開拓へとつなげていく。 以上の研究に加え、これまで取り組んできた高圧科学による新物質探索も引き続き進めていく。その場温度/圧力変化XRD測定の結果から、新規の高圧相を既に発見しており、その結晶構造が徐々に明らかになってきている。次年度は、単結晶X線構造解析により精密結晶構造の解明を目指す。
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