研究課題/領域番号 |
22J21126
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鴨川 径 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 二酸化炭素還元光触媒反応 / 反応機構 / 時間分解分光法 |
研究実績の概要 |
本年度は、Ru(II)-Re(I)超分子光触媒によるCO2還元反応機構の解明に取り組んだ。これまでの研究から、光触媒サイクルの初期の中間体である一電子還元種が、光誘起電子移動反応を起点として、光励起後数十マイクロ秒以内に生成することが明らかとなっていた。しかしながらこの一電子還元種の後続過程については、その時間スケールが比較的遅いため、従来のpump-probe法やRandomly-Interleaved-Pulse-Train法で調べることが困難であった。そこで、Rapid-scan FTIR法とレーザーフラッシュフォトリシスを組み合わせることで、一電子還元種の後続反応の直接観測を試みた。この測定は、名古屋大学大学院理学研究科光生体エネルギー研究室との共同研究により実現した。その結果、一電子還元種の後続の中間体として、Re触媒部がfac-ReI(diimine)(CO)3(C(=O)OH)となったカルボン酸錯体を光触媒反応溶液中で検出することに初めて成功した。この一電子還元種の後続反応の速度定数は1.8 s-1であり、錯体濃度に依存しなかった。またこの重要な中間体は、定常光照射時の光触媒反応液のFTIR測定でも検出された。さらにカルボン酸錯体は、数十秒の時間スケールでCOとOH-を放出し、出発錯体に戻った。この際に放出されたOH-は別のCO2分子と反応し、重炭酸イオンとして検出された。解明された各過程の速度論に基づいて、このカルボン酸錯体の分解反応が触媒サイクルの律速過程であることが強く示唆された。このように、光触媒反応の中間体の構造や速度論を解明することで、複雑な光触媒反応機構の全容を解明することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
時間分解赤外分光法や液体クロマトグラフィー分析等を用いることで、Ru(II)-Re(I)超分子光触媒反応によるCO2還元反応の中間体の構造や各過程の速度論が明らかとなり、数十年にわたって未解明だったRe(I)触媒による二酸化炭素還元反応機構の全容を解明することに成功した。今回得られた反応機構に関する知見は、今後より優れた光触媒系を構築するために非常に重要である。得られた成果は既に学会(国内4件、国際1件)で発表しており、論文も執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、Re(I)錯体による二酸化炭素捕集能の改善に取り組む。Re(I)触媒はトリエタノールアミン共存下で効率的に二酸化炭素を捕集し、炭酸エステル錯体を形成する。これまでの研究からこの捕集反応の速度が、Ru(II)-Re(I)超分子光触媒の性能、特に低濃度二酸化炭素雰囲気下での光触媒活性を決定する重要な因子の一つであることが分かっている。そこでまず初めに、ストップトフロー法により二酸化炭素を含む溶液とRe(I)錯体を含む溶液を混合し、その際の紫外可視吸収スペクトル変化を追跡することで、二酸化炭素捕集反応速度と活性化エネルギーを決定する。また、さまざまな置換基をRe触媒部に導入することで、Re触媒部の電子状態が反応の活性化エネルギーに与える影響を調べる。さらにGaussianを用いたDFT計算によって、捕集反応の律速段階や遷移状態に関する情報を精査する。前述の分光測定によって得られた結果と、DFT計算の結果を比較検討することによって、捕集反応速度を決定する因子を解明する。さらには、この結果とこれまでの研究から明らかになった反応機構に基づいて、分子構造、二酸化炭素捕集配位子及び反応条件の最適化を行い、より高い耐久性、二酸化炭素捕集能、反応量子収率を示す光触媒反応系の構築を目指す。
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