高分子は曲げや圧縮、超音波などの力学的な刺激によって分子鎖が切断され、メカノラジカルと呼ばれる反応活性なラジカル種を生成し劣化する。本研究では、高分子の力学的刺激による劣化現象の詳細な調査実現にあたり、蛍光性ラジカル前駆体であるジアリールアセトニトリル(DAAN)を分子プローブに用いた新たなメカノラジカル検出手法の確立を目的に研究を行っている。 昨年度までに、20種類を超える分子プローブの設計に成功しており、実験化学と計算化学を組み合わせてメカノラジカル検出能やDAANラジカルの蛍光波長の制御に成功してきた。本年度はそれらに関する研究成果を論文としてまとめ、Polymer Chemistry誌およびRSC Mechanochemistry誌に掲載された。 これまでの研究では粉末状態の試料を分析対象としてきたが、本年度は、より実材料に近いエラストマーフィルム内部で発生するメカノラジカルの可視化にも取り組んだ。具体的には、エラストマー内部で多量のメカノラジカルが発生していることが想定されるダブルネットワーク(DN)エラストマーに着目し研究を行った。一般的な方法で合成されたDNエラストマーをDAAN誘導体の飽和溶液で膨潤させたのちに収縮させ、力学物性に影響を与えることなくエラストマー内にDAAN誘導体を添加した。DAANを添加したDNエラストマーの引張試験を行い、DNエラストマー内部では歪み硬化領域付近からネットワークの切断が生じ始めることが示唆された。本研究によって、エラストマー内部で生じる分子鎖切断を可視化するための簡便かつ汎用性の高い手法の考案に成功した。この研究成果は、RSC Mechanochemistry誌に掲載され、Outside Back coverに選ばれたほか、Hot articleに選出され英国王立化学会のブログや動画共有プラットフォームにて紹介された。
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