研究実績の概要 |
令和5年度は、ホウ素とπ電子系との相互作用が誘起する骨格転位反応の機構解明と反応中間体の捕捉検討に取り組んだ。北海道大学理学研究院の前田理教授のグループと共同で、GRRMプログラムを用いた反応経路探索を検討した。その結果、ホウ素上におけるハロゲン引き抜き反応により発生したホウ素カチオンに対し、分子内のオレフィン部位が結合することでカルボカチオンが生じ、カルボカチオンが分子内で転位することで炭素―炭素結合の切断と形成を伴って進行していることが示さ れた。 また、ボロセニウムイオンに対してヒドリドイオンが付加して得られる中性ホウ素化合物は加熱により多環式ホウ素化合物へとさらに骨格転位する。本反応の機構を明らかにするために嵩高い置換基を有するカルベンによる反応中間体のトラップ実験を試みたところ、ホウ素がアルキル鎖のC-H結合へ挿入された構造を有する化合物のカルベン付加体が低収率ながら単離され、単結晶X線構造解析によって分子構造の詳細を明らかにすることができた。この結果は、加熱することで、分子内にボリレンのような高活性ホウ素化学種が生成している可能性を示唆しており、今後、新たなホウ素活性種を開拓する上で期待が寄せられる結果と 捉えている。これらの成果は、論文として投稿している(Chem. Commun., 2023, 59, 13635ー13638 .)。また、第50回有機典型元素化学討論会にてポスター発表を行い、ポスター賞を受賞した。
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