最終年度はインド国家教員養成カウンシルが認可する教員養成機関のうち保育士・幼稚園教諭に必要なディプロマを提供するデリーの教員養成機関39校を分析し、多くが2000年代前半に設置された民間の機関であることを確認した。一方、21機関についてはホームページ(HP)情報が確認できず、専門家へのヒアリングの結果、インドでは就学前教育に特化したディプロマの取得を不問とする保育施設・幼稚園が少なくなく、ディプロマの需要不足により閉鎖された教員養成機関があること、HPのない機関については実態がない可能性がある点が指摘された。 現地調査(2023年6月)では、インド女性子ども開発省管轄下のアーンガンワーディー、同施設の教材開発・教員養成を支援するPratham(NGO)、国立大学ジャミアミリアイスラミア(JMI)のEarly Childhood開発研究センターを訪問した。 訪問したアーンガンワーディーでは、低所得者層(デリー以外の州からの出稼ぎ労働者を含む)の子どもを対象とする遊び中心の学習が徹底されており、加えて外国の支援団体からの資金援助を受けてタブレットを活用した学習が試験的に実施されるなど、活動型の教育が展開されていた。また家庭教育の充実を図るため、保護者(とりわけ母親)を対象とする参加型の集会が定期的に実施されていた。 アーンガンワーディーに関する先行研究の多くは同施設における教育の不在を指摘しているが、今回の調査結果では、都市の公立保育施設が多様な支援組織の協力を得て、構成主義に基づく教育を展開していること、その対象範囲が低所得者層の子どものみならず保護者を含む地域全体に拡大していることを確認した。またJMIの修士課程修了者は、インド女性子ども開発省、NGO等に就職し、就学前教育施設の現職教員の育成・指導を担っており、就学前教育の質向上において重要な役割を果たしていることを確認した。
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