ASD児者はノイズ下での言語聴取能力が低いことが明らかになっている。しかし,支援方法については十分な研究が行われておらず,効果的な支援方法の開発のためには,その背景要因に関する研究が必要であると考えられた。そこで本研究では,背景要因として考えられる2つのASD特性について検討した。 第一に,ASD児者は音声より非音声に注意が向きやすいという非音声への注意バイアスがあることから,非音声のノイズ下では注意がノイズに向き,言語聴取が特に困難な可能性が考えられた。しかし,一般大学生を対象とした2022年度の研究では,非音声への注意バイアスとASD傾向の高い大学生のノイズ下での言語聴取困難との関連は示されなかった。2023年度はより非音声への注意バイアスが強いと考えられるASD児及び定型発達児を対象とした研究を行ったところ,ASD児においても,非音声への注意バイアスとノイズ下での言語聴取困難との関連は示されなかった。 第二に,2023年度は想像力の低さとの関連についても検討した。ASD児者のノイズ下での言語聴取困難にはノイズにより断片的になった音声を時間的に統合することの困難さが関連していることが示されている。さらに,感覚刺激の統合困難とASD特性の一つである想像力の低さが関連することから,想像力の低さがノイズ下での言語聴取困難及び視覚刺激の時間的統合困難と関連するという仮説を立てた。一般大学生を対象とした研究の結果,仮説通り想像力の低さとノイズ下での言語聴取困難との関連が示されたが,想像力の低さと視覚刺激の時間的統合困難との関連は示されなかった。 以上の通り,本研究ではASD児者において見られるノイズ下での言語聴取困難の背景要因に関する複数の知見を得た。
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