加齢や肥満は糖代謝機能の低下を招く.この原因の1つに老化した脂肪細胞の蓄積(細胞老化の亢進)がある.細胞老化は炎症反応を促進させ,代謝異常や全身の老化を加速させる.この脂肪細胞老化の改善には運動トレーニングが有効である.一方で,なぜ運動トレーニングが脂肪細胞老化を改善するか詳細なメカニズムは明らかにされていない.本研究では運動が脂肪細胞老化を改善するメカニズムとして血中代謝物に着目した. 本研究では,コントロール群,高脂肪食摂取群,高脂肪食摂取+運動トレーニング群を設けた.18週間の介入期間終了後,脂肪組織および血液を採取した.脂肪組織の細胞老化を評価したところ,高脂肪食摂取によって脂肪細胞老化が亢進するものの,運動トレーニングによって一部改善されることが示された.そこで,採取した血液の代謝物をメタボローム解析により網羅的に測定し,統計解析を実施した結果,脂肪組織の細胞老化と負の相関関係を示す代謝物(リン脂質)を同定した.そこで,同定した代謝物の生成に必要な一価の不飽和脂肪酸を老齢マウスに8週間経口投与したところ,脂肪組織の細胞老化の改善が確認された.この細胞老化の改善には,皮下脂肪組織の熱産生の増加に起因する全身エネルギー消費量の向上が関係している可能性が示唆された. 本研究の知見は,運動の代替法となり得る新規栄養戦略の確立に貢献するものである.この栄養戦略は,高齢者や肥満症患者など糖代謝機能が低下しやすい,かつ,十分な運動ができない人々に対して有効な手段となる可能性がある.したがって,今後は臨床への橋渡しを目指した研究としての発展が期待される.
|