研究課題/領域番号 |
22J22887
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
林 希久也 電気通信大学, 情報理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 室温りん光 / 蓄光 / 三重項励起子 / 光イオン化 / 高解像顕微鏡 / 超解像イメージング |
研究実績の概要 |
長寿命室温りん光は、自家蛍光に依存しない高解像イメージングへの応用が期待されている。しかし、既存の技術では長寿命室温りん光の超解像検出は達成できない。本研究は、研究代表者が見出した長寿命室温りん光の消去機構を用いて、超解像蓄光イメージングを達成することを目的としている。 長寿命室温りん光の消去は、励起光により形成された長寿命な励起三重項状態分子の最低空軌道(LUMO)の電子が励起光よりも長波長側の強い光(刺激ビーム)の照射により真空準位へ到達し、色素がイオン化することで生じていると予想される。この仮説を検証するために、様々な色や強度の刺激ビームを用いて長寿命室温りん光の消去挙動を評価した。その結果、特定の波長よりも長波長側の刺激ビームでは長寿命室温りん光が消去されず、この波長の閾値は色素のLUMOのエネルギー準位と同等であることが確認された。また、励起光と刺激ビームが同時に長時間照射された長寿命室温りん光材料から、光イオン化に由来する電荷シグナルが検出された。それゆえ、長寿命室温りん光の消去は励起三重項状態分子が刺激ビームによりイオン化することで生じていることが明らかとなった。また、断面強度がドーナツ型に変調された刺激ビームを励起光と重ねて長寿命室温りん光薄膜に照射した場合、励起光のみの照射時と比較し高解像化した蓄光が検出された。この高解像イメージング実験から、蓄光の超解像化の達成のためには、より高輝度な蓄光材料と共焦点系の光学設計が必要であることが明確となった。このように2022年度では、長寿命室温りん光の消去機構の解明と高解像化に成功し、蓄光の超解像検出へ向けた課題点を明確化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、刺激ビームの色や強度と室温りん光消去の関係および刺激ビームによる電荷発生の解析から、長寿命室温りん光の消去は刺激ビームの照射により色素が光イオン化することで生じていることを明らかにした。さらに、断面強度が変調された刺激ビームを励起光と同時に長寿命室温りん光薄膜に集光可能な高解像顕微鏡を構築し、その顕微鏡を用いることで蓄光が高解像化することを確認している。以上の結果は学会および学術論文として発表した。 また、刺激ビーム強度と室温りん光消去の関係から、励起光による色素の2光子イオン化が長寿命室温りん光輝度の飽和の要因の一つとなっていることが明らかとなった。それゆえ、励起光による2光子イオン化を抑制する分子設計を組み込むことで、より高輝度な長寿命室温りん光材料を見出すことができると考えられる。 以上からおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の長寿命室温りん光の高解像観察の結果から、超解像空間において蓄光を十分に検出するためには、より高輝度な長寿命室温りん光が必要である可能性が示唆された。2023年度では、高強度励起光照射時における蓄光輝度の飽和を抑制し、超解像空間でも十分な輝度を示す長寿命室温りん光材料を作製する。低いLUMO準位を有する長寿命室温りん光色素を用いることで励起光による2光子イオン化を低減できるため、蓄光の高輝度化が期待される。そこでLUMO準位が異なる長寿命室温りん光色素を用いて励起光強度と蓄光輝度の関係を定量的に解析し比較することで、励起光による2光子イオン化が蓄光輝度の飽和に及ぼす影響を明確にする。上記結果から得られた知見をもとに、より高輝度な長寿命室温りん光を示す材料の作製を目指す。 また、ドーナツ型刺激ビームと励起光が同一焦点で照射可能な共焦点顕微鏡を構築する。高輝度長寿命室温りん光材料と構築された共焦点顕微鏡を用いて蓄光の超解像検出に挑戦する。
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