研究課題/領域番号 |
21J20011
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
勝又 崇 一橋大学, 大学院法学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 異同文献 / 差異文献 / ローマ法 / カノン法 / ザクセンシュピーゲル / ザクセン法 / 命令不服従 / 近世私法史 |
研究実績の概要 |
2021年度は、第一に、ローマ法と教会法を比較する異同文献を研究対象の中心に据えて、日本から可能な限りで史料収集と先行研究の整理を行った。史料面では特に、中世後期の印刷本のオンラインでの収集を行った。文献としては、第2次大戦後の研究を辿った上で、そこに記述されている、現存史料、およびそれぞれで論じられている法的論点を整理することができた。その上で、各著作が著された背景や目的を考察する足がかりとすべく、それぞれの序論を検討した。これらの検討による成果をより広く中世学識法史の中に位置づけるべく、中世ローマ法およびカノン法に関する先行研究の整理も行った。 これに関連して、第二に、修士論文の問題意識を発展させて、16世紀に著されたローマ法とザクセン法を比較する異同文献に関する研究も行った。すなわち、ザクセンにおける被告の裁判欠席時の手続の特徴付けを13世紀のザクセンシュピーゲルから18世紀のルドヴィチまで通時的に研究することで、14世紀のザクセンシュピーゲル註釈における「命令不服従」概念による整序と上述の異同文献による2つの法の差異の強調が、当該法制度に関する後世の「ゲルマン的」との特徴付けに寄与していることを明らかにした。これに関して「日本ローマ法研究会大会」にて報告を行った。これに関する原稿は、2022年度に国内の雑誌に投稿する予定である。 またこれに関連して、第三に、ドイツ法史学における「ゲルマン法」概念に関する研究史上重要な位置を占めるケルンの「良き古き法」学説の成立史についても研究を行った。すなわち、ギールケおよびテニエスとの関係において、この学説を20世紀初頭の法史学における重要な転換点として位置づけ、かつて一時的に有していた大きな影響力をそこから説明した。これに関する原稿は、2022年度に国外の雑誌に投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度に計画していた、ローマ法と教会法に関する異同文献に関する研究を、完全には目標達成できなかったものの、順調に進めることができた。 まず、日本で入手できたポルトメ等の先行研究を利用して、当該異同文献にあたる各著作の史料現存状況を調査し、また各著作で扱われている法的論点を整理することができた。史料のうち、写本の調査は2022年度の在外研究に待たねばならないが、印刷本については14-15世紀に著された差異文献のほとんどを収める16世紀の法学論文集"Tractatus Universi Iuris"をデータとして入手した。また、ローマ法および教会法の制度史に関する先行研究も調査した。ただし、これらはあくまで準備作業に留まり、研究成果として結実させるには至らなかった。 加えて、本テーマに関連する、ザクセンの異同文献および「良き古き法」学説に関する検討をも行った。前者については、学会報告の形で発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、ローマ法とランゴバルド法を扱った諸著作の分析を中心に行うとともに、ローマ法と教会法を扱った諸著作に関するさらなる史料調査と内容検討にも取り組む。そのために、ハンブルク大学を中心地に据えて、ヨーロッパ各地での調査を行う。 第一に、2021年度に行った諸著作の史料現存状況の調査の対象をランゴバルド法に関する著作等にも広げるとともに、その結果を踏まえて、各地の文書館に残された手稿本および印刷本を調査する。第二に、それらの種々の史料を、それぞれの間で、および16世紀末に印刷に付された大規模な法学論文集である"Tractatus Universi Iuris"に収録された版と比較することで、時代や地域によって諸著作が被った変化の有無を、またあるとすればいかなるものかを精査する。 第三に、日本では入手困難だったものを含めて、異同文献ならびに中世ローマ法、カノン法およびランゴバルド法に関する文献を収集した上で、改めて先行研究の整理を行う。 第四に、こうした調査の結果特に注目に値すると思われた特定の法制度のいくつかを取り上げ、異同文献にあたる諸著作における当該法制度の特徴づけの変遷、およびその際の比較の手法の変遷を辿る。 第五に、中世ローマ法、カノン法、ランゴバルド法それぞれにおける当該法制度の学説史を、先行研究を参考に整理した上で、上述の諸著作における変遷をその内に位置づけ、前者から後者への、または後者から前者への影響関係を明らかにする。それによって、異同文献が中世学識法においていかなる意義をもっていたのかを考察する。 こうした分析により得られた成果を、国内外の専門誌または大学紀要に投稿する。また、国内外の学会での報告を行う。
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