2023年度は、中世後期ローマ・カノン法と差異文献、20世紀の歴史学者フリッツ・ケルンによる「良き古き法」学説の形成および近世ザクセン法の3つのテーマについて研究活動を行った。 第一に、中世後期のローマ法とカノン法に関する異同文献で扱われている法制度のうち、婚姻における親の同意を取り上げ、その記述を時代的に前後の文脈の中に位置づけた。すなわち、ローマ法、カノン法、宗教改革に関する先行研究をも参照しつつ、異同文献のような、2つの法を比較する著作の記述がどのように形成され、法制度の展開においてどのような役割を果たしたかを解明し発表するべく、研究を進めた。一方で、写本の流布およびランゴバルド法に関しては、扱うことができなかった。 加えて第二に、2022年度に他の学術雑誌に提出しリジェクトされていた、20世紀の歴史学者フリッツ・ケルンによる「良き古き法」学説の形成の過程をドイツの歴史法学派および社会学の文脈の中に位置づけて明らかにしたドイツ語論文を投稿し、受理された。 第三に、近世ドイツのザクセン地方に存在した2つの大学、すなわちライプツィヒ大学およびヴィッテンベルク大学での法学研究の対照的な展開を、当時の人文主義的教育法の文脈において明らかにし、ライプツィヒ大学の学者が異同文献を著した背景を考察した報告を行った。また、ザクセンシュピーゲルの成立以降に伝えられるようになった、ザクセンシュピーゲルが皇帝の立法によって作られたものであるとの観念の広まりと、それが近世に否定されるに至るまでの過程から、地域固有法の効力の正統性のあり方を考察した報告を行った。
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