研究課題/領域番号 |
21J23026
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
戸井田 晴美 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 家族 / 子育て / 介護 / 虐待 |
研究実績の概要 |
これまで、家族のケアの負担や規範意識、社会構造などを捉えようとしてきたが、研究の過程で「家族のケアの本質は何か」を検討することの重要性が見出された。まず研究の土台づくりとして国内外の先行研究の検討、研究方法の知識と技術の習得を目指した。それと並行して質的研究と量的研究の双方から家族のケアに関する研究をすすめた。 具体的には、第1に、2021年度の調査では、家族のケアと虐待が近い位置関係にある可能性が示唆されたことから、「なぜよい子育てや介護を望んでいるにもかかわらず虐待に至ることもあるのか」を検討するためにインタビュー調査を実施した。2022年度は11名の協力者を得ることができ、なかでも実際に「虐待はしていないがその場面を頭で想像してしまう」「いつ虐待が起きてもおかしくなかった」などという語りから、虐待や不適切なケアとしてあらわれる行為だけでは捉えきれない領域が存在することが明らかになった。 第2に、JGSS2005(第5回生活と意識についての国際比較調査)の二次分析から子育てや介護は、国家よりも家族の責任であると考える人が多いことがわかった。さらに、介護より子育ての方が家族に責任があるとする回答が多かった。ケアの社会化という言葉は介護の社会化を意味するという先行研究の指摘を支持する結果であったといえる。これは、2000年の介護保険法の施行が与えたインパクトだけでなく、少子高齢化により誰しも介護の受け手や担い手の当事者となる可能性があるという普遍性も影響したと考える。その一方で、なぜ子育ては依然として家族の責任とする考えが根強いままなのか疑問が残るため、ほかの年代と比較しながらその動向を検討する必要性が示された。 第3に、児童、高齢、障害などの分野に分けれた福祉サービスを利用する当事者だけでなく、その家族も包含した視点を持って、家族の複合的課題を整理して評価する必要性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の「今後の研究の推進方策」で示していた通り理論と実践の統合を意識し、日本家族社会学会、日本社会学会などでの学会報告だけでなく、子育てや介護にかかわる実践の現場で働く方に向けて研究成果を発表した。そこで得られたフィードバックをもとに内容の改善を図りながら研究を進展させることができた。 また、介護支援専門員の方に向けて、ダブルケアや8050問題など家族の複合的課題をテーマとした講演の機会をいただいた。地域包括支援センターなどに所属する介護支援専門員の方が福祉サービスを利用する高齢者(以下、当事者)の自宅に訪問した際、高齢者以外の家族が抱える就労や生活の困難、健康上の問題、家族への暴力など、多くの課題に直面することがある。それが円環的に当事者の課題となっていることや、生活の基盤や家族内の人間関係に影響を及ぼし家族全体の課題となっていることもある。しかしながら、これまで当事者を支援の対象としたアプローチが主流であったことにより対象が限定され、当事者以外の家族の課題が据え置かれることもあった。そこで、家族の複合的課題を「経済」「生活」「健康」「虐待」に分類し、当事者とその家族も含めて実態を評価していく作業を介護支援専門員の方とともに実施することとした。そのことによって、当事者だけでなくその家族も包含した視点を持って、家族の複合的課題を整理して評価する必要性を確認する機会を得ることができた。 以上をもって、おおむね順調に進展していると評した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度については、これまで得られた成果を基盤としながら研究計画を遂行する。 第1に、既存と新規の調査を通して子育てや介護に共通する「家族のケアの本質は何か」、それは何をもって本質と捉えるのか検討する。 第2に、なぜ子育ては依然として家族の責任とする考えが根強いままなのか、その影響はどのように生じるのか虐待との関連も加味しながら検討する。 第3に、家族のケアを理解するためにそこにある課題を整理して評価する際、どのような項目が適しているのか吟味する。 以上の3点を軸に研究をすすめることとする。 これまでと同様の点は理論と実践の統合を意識し、学会報告だけでなく実践の現場で働く方にも研究成果の発表をする。これは実態と乖離した解釈を加えていないか確認する意味でも本研究にとっては重要な作業となる。
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