本年度は複数の良好な新規ゲノムデータを得られたアフェリダ門菌を対象とし、以下の2つの研究を進めた。(1)本研究で取得した7種の新規ゲノムデータおよび既存のゲノム・トランスクリプトームデータを合わせた合計11種のアフェリダ類ついて、458遺伝子のアミノ酸配列データを用いた最尤法系統解析を行い解像度の高い系統樹を得た。アフェリダ類は単系統群をなし主要な真菌類(二核菌亜門、接合菌類、広義ツボカビ類)に対して姉妹群をなすという、先行研究と同様の結果が得られた。さらに、アフェリダ門内で鞭毛の欠失が独立に2回起こったこと、および宿主藻類の系統の変化が複数回生じていることが明らかとなった。(2)上記の11種のアフェリダ類について、特に鞭毛関連遺伝子および一次代謝関連遺伝子に着目した比較ゲノム解析を行った。鞭毛関連遺伝子については、鞭毛を持つ種であっても鞭毛内輸送装置や鞭毛内輸送に関わるダイニン2複合体の一部が失われていることが分かった。アフェリダ門全体として鞭毛関連遺伝子の一部が失われている傾向があり、さらに複数の系統で独立に関連遺伝子の欠失が起こっていることが分かった。一次代謝関連遺伝子では、アフェリダ類は一部を除き核酸合成経路、アミノ酸合成経路の大部分を保持していることが分かった。ただし、種によって部分的な欠損が見られ、種ごとに栄養の要求性がことなることが分かった。一方で、窒素同化、硫酸同化に関わる遺伝子や、脂肪酸合成経路、一部のビタミンの合成経路が共通して欠損していることがわかり、藻類の細胞内寄生菌として一次代謝の一部を宿主に依存していることが示唆された。本研究では、クリプト菌門については十分なデータは得られなかったが、アフェリダ門のゲノムデータを充実させこれまでにないタクソンサンプリングを実現し、アフェリダ門内の系統進化を詳細に明らかにすることができた。
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