研究課題/領域番号 |
21J01347
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
橋本 征奈 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 特別研究員(PD) (30824932)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 量子もつれ光 / 二光子吸収 |
研究実績の概要 |
(1)量子もつれ光の高効率発生 まず、強度安定性が高い連続波レーザー光源(中心波長407 nm)を用いて、自発的パラメトリック下方変換(SPDC)により量子もつれ光子対(光子対)を発生させた。SPDC用結晶には、角度位相整合のため結晶用温調が不要であり、かつ、紫外光領域での損傷閾値(透過率)が高いBaB2O4(BBO)結晶を用いた。また、発生させた光子対を高効率に二光子励起に用いるために、変換された光子対(信号光とアイドラー光)の出射方向が励起光の透過光と同軸であり、かつ、変換効率が高いType-I結晶を選定した。さらに、結晶の厚みも検討した。 次に、変換効率向上を目的に、周期分極反転結晶を設計・購入した。周期分極反転結晶を作成可能であり、変換効率と損傷閾値が比較的高いMgO添加LiTaO3(MgSLT)結晶を材質に選定した。波長407-nm光に最適化した分極反転周期を計算し、発生する光子対の波長分布の調整や、励起光の波長掃引に対応可能な、反転周期が結晶内で変化した結晶を選定した。 (2)二光子吸収測定系の構築 (1)でBBO結晶により発生させた量子もつれ光子対を用いて、二光子吸収測定系を構築した。一光子吸収による透過光減少の影響を排除するために、構築した二光子吸収測定系では、試料を透過した光子対の検出頻度を計測する同時計数法により、溶質に由来する光子対の透過率減少量を測定し、試料の量子もつれ二光子吸収断面積を算出した。古典二光子吸収、および、量子もつれ二光子吸収断面積が報告されているポルフィリンおよびローダミン色素を標準試料に用いて、構築した二光子吸収測定系の精度を評価した。さらに、フェムト秒レーザー光源を用いる古典二光子吸収測定系も構築し、未知試料を含む複数の化合物の古典および量子もつれ二光子吸収断面積を算出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)量子もつれ光の高効率発生 まず、当初の計画通り強度安定性が高い波長400 nm付近の連続波レーザー光源を作成した。発生させた中心波長407 nmの連続波光源を励起光とし、Type-I BBO結晶を用いる自発的パラメトリック下方変換(SPDC)により量子もつれ光子対を発生させた。さらに、変換効率の向上を目的に、周期分極反転結晶を設計・購入した。現在、購入した結晶の変換効率等の性能を評価している。 (2)二光子吸収測定系の構築 BBO結晶を用いて発生させた量子もつれ光子対を光源とし、同時計数法による二光子吸収測定系を構築した。古典二光子吸収、および、量子もつれ二光子吸収断面積が報告されているポルフィリンおよびローダミン色素を標準試料に用いて、構築した二光子吸収測定系の精度を評価した。さらに、当初の計画に加え古典二光子吸収測定系を構築し、未知試料を含む複数の化合物の古典・量子もつれ二光子吸収断面積を算出した。これらの成果に関して、現在、論文執筆中である。 周期分極反転結晶を設計・購入、および、量子もつれ二光子吸収測定系の構築を計画通り遂行し、さらに、古典二光子吸収との比較実験まで行ったため、当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)量子もつれ光の高効率発生 令和3年度に購入した周期分極反転結晶を用いるSPDCにより、高効率に光子対を発生させることを目指し、結晶への励起光集光条件、および入射角度などを検討し、変換効率を最大化する。さらに、周期分極反転結晶により発生させた量子もつれ光子対を用いる二光子吸収測定系を構築する。BBO結晶により発生させた光子対を用いる場合と、量子もつれ二光子吸収効率を比較する。結晶の変更により二光子吸収効率が大きく低下した場合には、結晶、または励起光源の変更を検討する。 (2)二光子吸収測定系の改良と照射実験 令和3年度に構築した二光子吸収測定系の信号対雑音比を向上させる。まずは、照射する光子対あたりの吸収効率の向上を目的とし、光子対の試料への集光条件、および、試料セルの光路長を最適化する。さらに、検出器の雑音低減を行う。次に、二光子吸収率測定後、光学配置を変更せずに照射実験を行い、透過光強度を経時的に計測する。透過光強度に有意な差が現れた段階で生成物を分析する。
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