研究課題/領域番号 |
21J20049
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
宮武 知範 横浜国立大学, 大学院理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 高温超伝導 / ニッケル酸化物 / 層状化合物 / 新超伝導体 |
研究実績の概要 |
本研究では銅酸化物高温超伝導体(HTSC)の超伝導機構解明に対して、類縁物質探索というアプローチで貢献する。すなわち、HTSCと同じ結晶構造・電子的特徴を持つ銅以外の酸化物に着目して超伝導発現を検証し、HTSCとの一致点・相違点を明らかにする。これにより、高温超伝導発現の必要条件を抽出して転移温度(Tc)向上の指針を得るとともに、新たな高温超伝導物質群の開発に寄与する。 本研究では、周期表で銅の隣にあるNiの層状酸化物R4Ni3O8(R=La,Pr,Nd,Sm)に着目する。層状Ni酸化物では近年、薄膜のみであるが(R,Sr)NiO2におけるTc=約15Kの超伝導が報告され、更なる研究のために類縁物質における超伝導探索が必要とされている。 Pr4Ni3O8に対して、Niサイトの元素置換によりキャリア量調節を行い、Ni-3d電子数をHTSCにおける最適ドープである3d8.85に近づけた。特に2つあるNiサイトのうち一方のみを元素置換して、伝導面であるNiO2面をクリーンに保つことを試みた。今回元素置換に用いたドーパントはCoとCuであり、これらは元素置換が比較的容易に行えた。粉末X線回折(XRD)による結晶構造解析の結果、これらのドーパントはおおよそ2価で存在し、特定のNiサイトを選択的に置換していることが示唆された。電気抵抗は低温まで金属的でありキャリアの局在を示さなかったが超伝導は確認されなかった。 そこで選択的置換のより直接的な情報を得るため、KEK-PFにて放射光を用いたX線吸収微細構造(XAFS)による局所構造解析を行った。今年度はCoをドープした試料についてXAFS実験を行ったところ、Coの価数は2価であったが、2つのNiサイトの両方をほぼランダムに占有していることが示唆された。XRDとXAFSで異なる結果が得られたが、双方の結果の妥当性などは今後検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はCo,CuをドープしたPr4Ni3O8試料の合成と物性測定、および放射光を用いたXAFS実験による局所構造解析を行った。ドーピングに伴う構造および物性の変化を結晶構造解析および電気抵抗・磁化測定により確認できた。選択的置換が実現しているかどうかはXRDとXAFSで異なる結果が示唆されており現在未確定であるが、超伝導が確認できなかったことから、合成手法の改善や新たなドーパントの探索が必要であることが分かった。このように試料合成・構造解析・物性評価という一連のプロセスを滞りなく行えたことから「おおむね順調に進展している」とした。新たなドーパントとしてはTi,V,Crなどを候補として挙げており、過去の予備的研究においてNiサイトを置換しうることが分かっている。 XAFS実験は我々の研究グループにおいて初の試みであり、今年度はCoドープ試料の一部の吸収端測定にとどまった。測定手法やデータ解析などに大いに改善の余地が残されているが、今年度の実験にてXAFSの手法やノウハウを十分に得ることができたため、次年度以降は十分な成果を上げられると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後はR4Ni3O8においてNiサイトを置換するドーパントをさらに探索するほか、Oサイトのフッ素Fによる置換を試みる。また、元素置換によらないキャリアドープとして電界効果ドーピングを行うため、電界効果トランジスタ(FET)型デバイスの作製を試み、物性評価を行う予定である。 NiサイトにはTi,V,Crなどが置換可能であることが分かっているため、最適な電子状態にするためにドープ量の調整や合成条件の改善を行い、これらのドーパントの価数や占有サイトを特定するためにXRDによる結晶構造解析およびXAFSによる局所構造解析を行う。 OサイトへのFドープは、フッ化物を原料とした固相反応法やテフロンを用いたアニールなど複数の手法を用いて行い、X線光電子分光(XPS)などの元素分析・価数分析によりドープされたかどうかを確認する。これらの試料は電気抵抗・磁化測定により超伝導発現を確認する。 FET型デバイスについてはイオン液体を用いた電気二重層トランジスタを作製して電界効果ドーピングを試みる予定である。試料がペレット状の多結晶体であるため電極の蒸着が難しいことや、通常の銀ペーストを用いた端子付けではイオン液体により端子が剥離することが想定されるため、ポゴピンなどを用いた機械的接触により導通を取る手法を予定している。
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