研究課題/領域番号 |
21J20684
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
田村 成 横浜国立大学, 理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | アレーアンテナ / メタサーフェスアンテナ / ビーム走査 / ヌル走査 / 方向推定 / 移相器 |
研究実績の概要 |
当該年度前半は、前年度に報告した小型で高精度に方向を探知するメタサーフェスアンテナを位置推定用途に使用する基礎検討を進めた。使用アンテナは電波を特定角度方向のみ放射しない「ヌル点」を任意方向に精密に走査する。しかし、従来アンテナと共通の課題点は、ヌル点の精度 (電波を放射しない度合い) が走査角度ごとに異なるため、方向推定の結果が角度に依存することである。この問題が引き起こす精度誤差について調査した結果、走査角度が30度程度であれば3度の角度分解能で、60度程度であれば5度となった。提案アンテナを利用しない場合は、走査角度が30度の時に8度、60度のときに15度以上の誤差が生じるため、推定誤差を大きく抑制できることが判明した。
当該年度後半は、メタサーフェスアンテナによる方向推定精度を検証するための検証を進めた。ヌル点を全方向に精密に走査するために、アナログ移相器を使用する。しかし、アナログ移相器は入力信号の振幅が一定になりづらい構造なため、ヌル精度を大きく劣化する課題がある。そこで、この移相器の機能改善に取り組んだ。従来使用されてきた3 dBブランチライン結合器を用いずに、同じく平面回路であるMagic-Tを利用することを提案した。Magic-Tは電気的・物理的対称性を保持する回路であり、周波数に依存しない特性が得られる。この大きな特徴を利用して、振幅の変動が小さく、広帯域に動作する反射型移相器の新設計手法を発案した。年度内に試作・実験が完了し、比帯域幅29%の動作と損失変動が1.2 dB以下になり、最大移相量が290度得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度前半にはメタサーフェスアンテナが従来アンテナと比較して、方向推定精度をどれだけ改善できるかを定量的に明示できている。数値計算結果は2022年夏に開催された国際学会IEEE AP-S Symposium on Antennas and Propagationで報告済みである。また、ヌル精度を向上することによる推定精度の影響について実験的に確認することができている。これについては2023年2月にIEEE Antennas and Wireless Propagation Lettersに掲載された。以上の理論はメタサーフェスアンテナが方向推定に活用できることを実証する上で有効な研究成果である。
また、年度後半はアレーアンテナの構成に欠かせないアナログ移相器の高性能化に取り組んだ。移相器を設計する観点ではあまり注目されていなかったMagic-Tを採用することを独自に発案し、製作が容易で広帯域利用が可能かつ振幅の変化が小さい移相器を実現した。研究成果は、6月に開催されるマイクロ波分野の権威的国際学会IEEE International Microwave Symposium (IMS)で発表予定である。また、理論を進展させて挿入損失・使用可能帯域・損失変動において更に高性能化することに成功した。ここで得られた結果については、今後発表予定である。以上の研究成果は本研究の目的達成に貢献することに加え、幅広いアプリケーションへの応用に期待できる。
総じて、小型かつ高精度なメタサーフェスアンテナとその特性を劣化させない移相器の両方が完成し、方向推定に利用する際の改善効果は定量的に明らかにしている。発案した移相器とメタサーフェスアンテナを組み合わせた、アレーアンテナの改善効果を確認する準備が完了した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度はこれまでに提案している小型で深いヌルを走査するメタサーフェスアンテナを用いた方向探知実験を行う。前年度に提案したアナログ移相器をアンテナに統合して、最小構成で低損失・低消費電力・高分解能を有するアンテナを試作する。これによって、最小限のアンテナ数と移相器のみで高精度な方向探知が可能なシステムが完成する。この特徴を活用し、IoT機器と併合した位置推定システムを提案する。前年度までの研究では、ヌルを固定移相器で走査していたため、連続走査での実証は初めての試みである。走査特性について明らかにし、メタサーフェスアンテナの有用性を示す。
また、研究の重要推進項目に含まれる近傍界制御に基づくアンテナ高機能化について推進する。メタサーフェスの構造解析及び設計手法の確立に注力し、回路理論を基にアンテナ機能を高性能化する手法を提案する。アンテナ応用に際し、提案してきたメタサーフェスアンテナの構成を更に拡張する方針で行う。小型化及び高精度化に加え、高利得化や広帯域化の実現可能性を調査する。
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