研究課題/領域番号 |
21J22690
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
段野下 宙志 横浜国立大学, 理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 鉄鋼材料 / 変形 / 疲労 / 加工硬化 / 組織制御 / マルテンサイト / 中性子回折 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続いて、極低炭素マルテンサイト鋼を用いて、金属材料中の結晶欠陥の一種である転位の存在によって材料強度が増す「強化機構」に関する検討を続けてきた。昨年度までの研究により、転位強化を議論する上では、単純引張変形中に発達する転位組織の持つ特徴、たとえば転位の密度のみならず配列や性格などの因子も重要であることが強調された。この解析には、変形中のその場解析を可能とする中性子回折を用いた。今年度は、この結果を踏まえて明らかとなった「転位の単位長さあたりの強度向上への寄与度」の変形中の変化に関するモデルを立案した。また、繰り返し変形に伴う転位組織の発達挙動についても調査した。 まず、転位による強化機構を説明する上でよく用いられるTaylorの式における係数αが、変形中に変化すること、ならびに、その変化挙動は変形前のマルテンサイトが焼戻しされているか否かによって異なることを明らかにした。係数αが転位組織に依存して変化することはこれまでも定性的に理解されてきたが、本研究で定量的に明らかにしてきた転位組織を表現するパラメータを用いることで、αの変化挙動を説明することに成功した。その変化挙動は、焼入れ材あるいは300°C焼戻し材と500°C焼戻し材とで大きく異なり、そこで重要なのは転位セルの体積分率、転位配列のランダム性、そして転位のらせんおよび刃状成分の分率であった。 さらに、金属材料の疲労挙動を議論する上で、特に転位組織の発達過程で重要とされる初期の数千サイクルにおける繰り返し変形に伴う転位組織発達について調査を進めた。サイクル数の増加に伴う転位組織の発達挙動を、転位組織パラメータの変化により明らかにした。また疲労変形中に測定できたひずみ変化より、単純引張変形時との差について調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文発表1報、国際会議発表1件、国内学会発表2件を行った。そこでは、引張試験その場中性子回折を行うことで、マルテンサイト鋼における変形中の転位組織の変化と加工硬化挙動の関係について実験成果を導いてきた。中性子線の回折によって得られる巨視的な情報のみならず、電子線を用いた微視的な情報も示してきた。さらに、焼入れマルテンサイトと焼戻しマルテンサイトとで、加工硬化挙動が大きく異なったため、その挙動を説明するための新たなモデルを提唱することに成功した。 さらに、計画していた繰返し変形に伴う転位組織の解析、ならびに固溶炭素の影響を調査する実験にも着手しており、おおむね順調に研究進捗を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
繰り返し変形過程に確認された転位組織の発達挙動は、変形前の初期組織によって異なることが確認されており、その要因の理論的究明を目指す。そして、疲労特性の向上に対して、どのように転位強化機構を発現させれば良いのか、密度のみならず転位の持つ特性をどのように制御すれば良いのか、その設計指針を導く。 次に、変形中の転位組織の発達に及ぼす固溶炭素の影響の調査を進める。僅かな固溶炭素量の増加が変形中の転位組織の発達(転位配列の安定化や転位密度の上昇)を遅らせることが考えられるが、疲労寿命に対してどれだけ寄与するかを解明する。 さらに、量子線回折を用いた鉄鋼マルテンサイト組織の特徴づけに関する知見を活かして、加工熱処理プロセスを用いた組織設計における制御指針の提言を目指す。変形や熱処理の際に変化する転位組織を表現する種々のパラメータを組織設計へ活用するものである。
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