昨年度までに、鉄鋼マルテンサイト組織中における転位の配列や性格などの密度以外の転位特性の強度への寄与を明らかにしてきた。本年度の研究ではそれらの因子の疲労変形中における変化挙動について調査し、繰返し変形過程において転位下部組織の変化が完了するまでの素過程を調査し、疲労強度に対する転位強化の寄与について明らかにした。また、本研究を通じて転位特性に基づいた改良型の金属材料における強度モデルを発表した。このモデルでは、マクロな強度に及ぼす転位の密度以外の転位特性(配列や性格など)の影響を定量化するものであり、実験結果をもってこのモデルの正当性が主張された。以上より材料強度設計において転位特性を考慮に含めることが可能ととなったともに、必要とされている転位特性の定量化の手法(=量子線ラインプロファイル解析)の意義も改めて強調された。 さらに今年度は、二相組織設計に対して、変形によって発達・形成した転位組織の役割を調査した。具体的に、量子線ラインプロファイル解析を用いて二相冷延鋼板における熱処理前の初期組織の特徴付けを行い。高強度二相鋼の組織設計の最適化に向けたフィードバックを目指した。中性子線および電子線を用いたマクロおよびミクロ解析を行い、焼鈍中のミクロ組織形成挙動に及ぼす加工熱処理プロセス(熱間圧延、冷間圧延、焼鈍)における冷間圧延後の転位特性の影響を明らかにした。特に、優れた機械特性が期待される微視組織(等軸・微細なフェライトと微視組織中に均一分散したマルテンサイト)を得るためには、焼鈍前の転位密度を高めるだけでなく、転位組織における転位のセル化が有用であることを示した。
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