これまでの結果を踏まえ、液体電解質のイオン輸送において溶液構造・配位状態とダイナミクスに相関があると予想し、分子動力学シミュレーションを実行する事で詳細を検討した。今回、実験的に得られるドナー数に着目をし、配位性の異なる溶媒を6種選択、リチウム塩は弱配位性アニオンから成るLi[FSA]を用い電解液を調製した。 動径分布関数から、弱配位性のfluoroethylene carbonate (FEC)を溶媒に用いた電解液では、リチウムイオンに対し、溶媒とアニオンの双方が配位した橋掛けのネットワーク構造の形成を確認した。配位性の強いdimethyl sulfoxide (DMSO)を溶媒に用いた電解液では、イオンが溶媒に対し強く配位し多核錯体構造が主となる事を確認した。 次に、溶媒和自由エネルギー計算を実行し、同一液体電解質中での溶媒・アニオンのエネルギー障壁の違いを確認した。FECなどの配位性が弱い電解液では、リチウムイオン-溶媒・アニオン間の障壁の差は低いが、DMSOの様に配位性が強い溶媒を用いた場合、リチウムイオン-溶媒のエネルギーの方が大きく、次の配位サイトにリチウムイオンが移動しにくい事が示唆された。 最後に、リチウムイオン-溶媒の配位時間と溶媒の緩和時間を算出し、それらの比と実験的に見積もられるリチウムイオン輸率との関連性を検討した。FECの様に弱配位性の溶媒を用いた場合、溶媒の構造緩和に対し、リチウムイオン-溶媒間の配位時間が短く、ネットワーク構造中をリチウムイオンが輸送するexchangeable機構である事が示唆され、リチウムイオン輸率は0.7程度と高くなる事が示された。一方、配位性が強いDMSO系の電解液では溶媒の構造緩和の方が速く、リチウムイオンは錯カチオンとして輸送されるvehicle機構である事が示唆され、リチウムイオン輸率は0.1程度と低くなる事が示された。
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