自動運転の3Dセンサとして,我々はスローライト回折格子(SLG)を用いたFMCW LiDARチップを開発してきた.これまで測距信号スペクトルのノイズ調査として,OFDRを用いてLiDARチップの内部反射の解析を行い,チップに集積された各コンポーネントの損失や,SLG接続部に大きな反射が生じていることを明らかにした.そこで最終年度では,その反射によるノイズを抑制するための参照光経路等長化デバイスを製作した.参照光の経路長を適切な長さとし,熱光学ヒータにより位相を調整することでノイズを抑制でき,測距信号スペクトルを観測したところ,ノイズを約10 dB抑制しノイズ抑制に効果的であることを示した.一方で現状ではチップ内部の往復損失が約30dBと大きいため,測距距離は最大20mに留まるが,素子の最適化による損失の低減により往復損失を約10dBまで低減できる見積もりである.チップへの入力パワーの増大やレンズの最適化も考慮すると,測距信号のSNRは40dB改善し240m先まで測距が可能となる.これは車載応用で要求される200m以上の測距を十分に満たしている. さらに最終年度では新たに,FMCW LiDARの環境光耐性も調査した.FMCWはコヒーレント検波であるため耐性は高いと言われているが,FMCW LiDAR同士の干渉が報告されており,車載応用では大きな問題となる.しかしながら,学術的な議論はほとんどないため,他のFMCW LiDARおよび太陽光との干渉確率を初めて理論化した.干渉確率を空間的重なり,周波数的重なり,干渉強度,フレームレートにより表し,我々のFMCW LiDARは自動車の安全基準を満たし,かつToFと比べ3-4桁高い耐性をもつ.以上から,測距距離,環境光耐性ともに車載の要求を満足する高性能・超小型なSLG LiDARの実現が期待される.
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