有機電解反応において、陽極酸化によって生じるカチオン種/陰極還元によって生じるアニオン種は、いずれも反応性の極めて高い不安定な活性種である。従来の有機電解反応では、カチオン種とアニオン種は別々の反応に利用されることが多く、カチオン/アニオン間で進行する反応は報告例が極めて少なかった。原因として、陽極/陰極の間の距離をカチオン/アニオンが拡散する間に、それらが分解あるいは副反応を被ることが挙げられる。そこで、本研究では、陽極/陰極間の距離を数十マイクロメートルまで狭めることで、従来は困難とされたカチオン/アニオン間でのクロスカップリング反応を実現することを目指した。2023年度は、陽極/陰極間の距離が小さなフローマイクロリアクターを使用しつつ、陽極と陰極を数十ミリ秒毎に切り替える交流電解を実施した。交流電解により、一つの電極が陽極兼陰極として機能するため、カチオン/アニオンが同一の電極表面で発生する。これにより、カチオン/アニオンが出会うまでの時間をさらに短縮することができ、所望のクロスカップリング反応が進行しやすくなると考えられた。しかしながら、種々の反応条件を検討したにも関わらず、所望のクロスカップリングは進行しなかった。 しかしながら、以上の検討を通じて、陽極側の副反応であるメトキシ化反応が高収率で進行する条件(電流値や送液速度)が、基質の濃度に応じて大きく異なる点を見出した。 そこで、上記の知見を応用し、メトキシ化反応を目的反応と位置付けて、反応条件の最適化手法を提案するに至った。反応の進行に応じて、N-Bocプロリンメチルエステルの濃度は減少する。濃度の減少に応じて、電流値、送液速度の最適値も推移した。ここで、電流値や送液速度といったパラメータを、濃度の減少に併せて随時最適値へと変更してゆく、条件切り替え型の電解を実施することで、全反応時間における生産性が最大化された。
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