研究課題/領域番号 |
22J10844
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
酒井 啓一郎 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 休眠 / 休眠打破 / 発芽 / 細胞内流動性 / マイクロレオロジー / cAMP-PKA経路 / トレハロース / 分裂酵母 |
研究実績の概要 |
細菌、酵母、哺乳類細胞を始めとして、様々な細胞は、一時的に増殖を停止して休眠状態に入ることが知られている。休眠した細胞は、外環境からの化学的・物理的なストレスや刺激に対して耐性を持ち、増殖に適さない環境であっても長期に渡って生き延びることができる。単細胞生物である分裂酵母では、栄養源の枯渇に応答して有性生殖し、その結果として休眠細胞である胞子を作る。栄養源を与えると胞子は休眠を打破して、発芽と呼ばれる過程を経て、増殖サイクルを再開する。近年、休眠した細胞では、細胞内環境の変化に起因して、細胞内での分子の動きが制限される、すなわち、「細胞内流動性」が低下することが相次いで報告されている。しかし、細胞内流動性がどのような因子によって制御されているのか、そして、流動性の変化が細胞内機能にどのような影響を与えるのか、については不明な点が多い。本研究では、分裂酵母の胞子を休眠細胞のモデルとして用い、細胞内流動性の制御メカニズムと流動性が細胞内機能へ及ぼす影響を解明することを目的とする。 本年度は、増殖期細胞、胞子、発芽中の胞子における細胞内流動性を、蛍光性粒子を細胞内で発現させ、その動きを追跡することで評価した。その結果、増殖期細胞と比較して胞子では、流動性が著しく低下していることを発見した。さらに、休眠打破のシグナルとなる栄養源を与えると、細胞内流動性が1時間以内に急速に上昇することを見出した。流動性の制御メカニズムを解明するため、流動性に関与すると考えられる遺伝子を網羅的に破壊し、発芽後の流動性を観察した。遺伝子破壊株を用いた解析より、グルコースの感知経路(cAMP-PKA経路)とトレハロースの分解経路が発芽後の流動性上昇に必要であることを明らかにした。現在、休眠した胞子における流動性低下が、どのような細胞内機能へ影響を与えているのかを解析している段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、グルコース感知経路に含まれるPKAの活性を分裂酵母の増殖期細胞と胞子とで計測・比較することを計画していた。しかし、PKA活性レポーターが増殖期細胞では機能するものの、胞子では正常に機能しないため、PKA活性の測定を断念した。一方で、細胞内流動性の計測手法を分裂酵母の胞子で確立することができ、流動性の評価については当初の計画通りに進めることができた。さらに、遺伝子破壊株を用いた解析より、流動性の制御に関わる多数の因子を同定することに成功した。これらの理由より、本研究計画はおおむね順調に進展していると結論づけた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、分裂酵母の胞子において流動性がどのような分子機構によって制御されているのか、についてはわかってきた。今後は、胞子での細胞内流動性の変化がどのような細胞内機能へ影響を与えているのか、に着目して研究を進めていく。現在、転写・翻訳への影響を解明するために分裂酵母の増殖期細胞と胞子における転写速度・翻訳速度の計測手法の確立を進めており、今後、確立した手法を用いて実験・解析していくことを予定している。
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