研究課題/領域番号 |
22J13055
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 宏祐 総合研究大学院大学, 物理科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 光触媒 / オペランド分光計測 / オペランド顕微計測 / 活性正孔 / メタン / 界面水 / 助触媒 |
研究実績の概要 |
光触媒反応による高付加価値な分子変換を,高い効率,選択性で実現するには,酸化反応を担う正孔の特性を解明し,その知見に基づいた触媒開発を行うことが必要である。そこで本年度は,光触媒メタン転換反応においてメタンのC-H結合を酸化的に活性化する正孔種の解明を目指した。その結果,触媒表面に存在する水分子(界面水)に捕捉された正孔種が,効率的なメタン転換を担う活性種であることを以下のように見出すことができた。 触媒表面を一分子層の水分子で被覆した状態と,触媒表面に水分子が存在しない状態との反応活性を比較したところ,界面水が存在する場合には,メタン転換と水素生成の光触媒活性が数十倍増大することが確認された。この活性増大メカニズムを微視的に明らかにするため,同位体水(D2O)を用いたオペランド赤外分光や分子動力学シミュレーションを実施したところ,界面水に捕捉された正孔種による水素引き抜き反応がメタン転換反応における最初の重要なステップであり,水分子を介さないメタンの酸化反応経路は水分子を介した反応経路と比較して,極めて不利であることが明らかとなった。 さらに着目すべき点として,メタンの部分酸化種のひとつであるエタンの生成過程においても,水分子それ自身は反応式(2CH4 → C2H6 + H2)に明示的には関与していないにも関わらず,水によるアシスト効果が顕著に現れていることが確認された。この点を足掛かりに,反応の選択性を決定づける学理の構築にも着手していく予定である。 また,当初計画において令和5年度の実施内容として挙げていたオペランド顕微測定について,先んじて着手し始めた。引き続き,触媒動作中の分光計測と顕微計測を組み合わせることで,光触媒反応における活性な正孔に関する微視的な知見を得ることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究を通して,光触媒反応によるメタンのC-H結合活性化とその転換反応において,触媒表面に吸着した水分子が重要な役割を果たしていることを,実験と理論の両側面から明らかにすることに成功した。これにより,高付加価値な分子変換に向けて活性正孔種を解明していくうえで,オペランド分光計測や理論計算が強力な手法となることを実証できた。 また,この分光計測に基づく研究と並行して,令和5年度の実施内容として挙げたオペランド顕微計測についても前倒して着手している。本年度は,この顕微計測を通じて,活性正孔をはじめとする表面反応メカニズムに対する知見をさらに深めていく予定である。 以上の点から,本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で得られた活性正孔種に関する知見をさらに深めるため,オペランド顕微計測を本格的に推し進める。特に反応選択性における助触媒担持効果について着目し,分光計測の結果と照らし合わせながら,メタン転換反応の描像を明らかにしていく。 また本年度の研究により,表面反応の微視的なメカニズムを解明するうえで,理論計算によるアプローチが強力であることが実証された。当初計画には盛り込んでいなかったが,触媒動作中の分光計測と顕微計測による実験的な側面だけでなく,理論的な側面からも活性な正孔に関する知見を蓄積することで,メタンの自在転換に向けた学理構築を目指す。
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