研究課題/領域番号 |
22KJ1436
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
西尾 真 総合研究大学院大学, 複合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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キーワード | 量子多重化 / 表面符号 / HGP符号 / グラフ状態 / 量子誤り訂正符号 / 量子インターコネクト / フォールトトレラント量子計算 / 量子プログラミング言語 |
研究実績の概要 |
本年度は複数量子プロセッサから成る量子計算機クラスタにおける、量子インターコネクトのリソースの削減に関する研究を行なった。 1.時間多重光子を用いることで、表面符号やハイパーグラフ積符号(HGP符号)を用いた量子通信に必要となる光子数を大幅に削減しながら同等の誤り率を達成したり、同等の光子数でより符号距離が大きくロバストな量子通信が可能となることを示した。この手法はフォールトトレラント分散量子計算のボトルネックとなりうる量子インターコネクトのより効率的な実装を可能とする。 2.測定型量子計算や様々な量子計算・通信における重要なリソース状態であるグラフ状態に関する研究を行なった。局所補グラフと呼ばれるグラフ理論的操作と低コストな単一量子ビットゲートを用いることで、特に次数の高いグラフ状態の必要とするエンタングルメントが大幅に削減できることを示した。 3.前年度に定式化を行なった、量子計算機クラスタ上における量子プログラミング言語InQuIRの応用に関する検討を行なった。InQuIRプログラムの静的解析やリソース解析のためのシステムの概念実装を行なった。
これらの成果は量子クラスタ上のフォールトトレラント量子計算の実現可能性を高め、計算機科学的理解を進展させるものである。研究の成果を元に、Physical Review A及びプレプリントサーバーarXivに論文を掲載した。また、 Quantum Error Correction 2023、Quantum Information Processing 2024、2024 YITP Quantum Error Correction Workshopにおいて発表を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2024年度は、量子計算機クラスタに必要となる量子通信の頑健性の検証と、効率的な回路の割り当てを行うためのグラフ状態の最適化に関する研究を行なった。このうち、グラフ状態の最適化は当初の計画にはなかったが、研究計画における項目2(クラスタ上に量子プログラムを割り当てるシステムソフトウェア)と共に用いることで、量子計算に必要となるリソースを大幅に削減することができる。さらに、この最適化手法は既存の最適化手法に比して計算量的に優れ、項目3(量子プログラム最適化ソフトウェアのスケーラビリティ評価)において活用が期待できる。 また、最終年度に向け、表面符号を用いた新しい量子計算機クラスタのアーキテクチャの検証を開始した。これは当初の計画よりもさらに現実的な物理系におけるシステムであり、実用性が高い。このアーキテクチャは2025年度の上半期に成果が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、前年度までに得られた量子通信や誤り訂正符号に関する知見を活かし、効率的な量子計算機クラスタを設計する。近年になって共振器量子電磁力学を用いたデバイスの性能の向上が著しく、優れたスケーラビリティや柔軟な量子ビット間相互作用から量子情報処理における活用への期待が高まっている。さらに、このような系において効率的に実装可能なLDPC符号も提案されている。これらを用いた際に、大規模な量子計算機クラスタを構築した場合に必要となるシステムソフトウェアを設計・評価し、全体的なオーバーヘッドを評価する。この際、魔法状態蒸留のスループットや誤り訂正符号の復号器がシステム全体に与える影響を評価する。 さらに、量子計算機クラスタ上における量子プログラミング言語InQuIRを用いることで、計算機クラスタにおいて検証するべき物理的制約の軽量な静的解析を設計する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は日本学術振興会の若手研究者海外挑戦プログラムに採択されたため、4ヶ月間(2023年9月ー12月)英国University College Londonにおいて訪問研究を行なった。この訪問研究の渡航費用等はプログラム内から支出されたため、本奨励費の使用額が予定よりも少なくなった。 2024年度は最終年度であるため、積極的に国際学会(QIPやAQIS等)における研究成果の発表を行う。
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