研究実績の概要 |
単位的C*-環のユニタリー元全体の空間を単に距離空間として考えたとき,2014年にO. Hatoriにより,その主連結成分の間の全射等距離写像の構造が決定された.報告者は,上の結果をC*-環の非結合的なアナロジーである単位的JB*-環に一般化する研究に携わり,その結果はM. Cueto-Avellaneda, D. Hirota, T. Miura および A.M. Peraltaとの共著として出版されている. 正則関数のなす関数空間における等距離写像の研究として,2018年および2020年にT. Miura and N. Niwaにより,単位円板上の正則関数でその微分が円板環に属するようなもの全体のなす関数空間が考えられ,その上のいくつかのノルムに対する線型性を仮定しない全射等距離写像の一般形が記述された.報告者は,T. Miuraとの共同研究によって,この関数空間が連続微分可能な境界値をもつ正則関数の全体と一致することを見出した.この関数空間の一般化として,n回連続微分可能な境界値をもつ正則関数のなす関数空間を考え,和ノルムに対する線型性を仮定しない全射等距離写像の一般形を記述することができた.この結果は,RIMS Kokyuroku Bessatsuに投稿中である. 2021年にO. Hatori, S. Oi and R. Shindo Togashiにより,関数環に対してTingley問題が肯定的であること,すなわち,関数環の単位球面の間の全射等距離写像が関数環全体の間の全射実線型等距離写像に拡張されることが示された.この結果は,M. Cueto-Avellaneda, D. Hirota, T. Miura and A.M. Peraltaによって,局所コンパクトHausdorff空間上の一様閉関数環に対して一般化された.報告者は,この結果から積の構造をもつという仮定を外し,局所コンパクトHausdorff空間X上のスカラー値連続関数のなすBanach空間のextremely C-regularという性質を持つ部分空間にまで一般化した.この結果は,2021年度関数環研究集会において口頭発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,Banach加群や関数空間の構造を保存問題を通して調べるものであった.等距離写像の研究においては,T. Miuraとの共同研究で,正則関数でその境界値がn階連続導関数をもつもの全体のBanach環の等距離写像を決定した.また,連続関数全体のなすBanach空間のextremely C-regular subspaceに対するTingley問題を肯定的に解決した.さらに,M. Cueto-Avellaneda, D. Hirota, T. Miura and A.M. Peraltaとの共同研究に携わり,JB*環のユニタリー元の集合の主成分の間の全射等距離写像の構造を決定している. 一方で,C^1関数全体,Hardy空間およびFock空間など,Tingley問題が解かれていない関数空間も未だ多く残っており,これらの関数空間に対する結論は得られていない. スペクトル保存問題に関してはほとんど進捗を得られていない.関連する問題の値域を保存する写像については,ベクトル値正則関数の空間に対していくつかの知見を得ており,これを基に研究を行いたい.
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