本研究では,飛騨山脈北部,白馬大雪渓周辺において野外実験と空撮技術による岩盤斜面のモニタリングにより,多雪地域の高山帯で生じる岩盤崩落のメカニズムを明らかにすることを目的としている.白馬岳の2700m付近に設置した気温計の結果から,本年度の年平均気温は昨年度に比べて高く,稜線付近に設置した多くの地点の地温も同様に高かった.しかしながら,積雪量や根雪開始時期の違いによって,逆に本年度の平均地温が低くなる地点もあり,地温の年々変動は場所によって異なることが確認された.亀裂変位計の結果から,融解開始時期に亀裂幅が最大値をとることを確認した.以上の結果は凍結融解作用の生じやすい条件および落石の発生地点を理解するうえで重要な現地データあり,学会にて成果の発表をおこなった.2005年に死傷者を出した崩落の発生域周辺で,1976年以降の削剥過程を調査した結果,節理密度の大きい岩壁で削剥が進むだけでなく,節理密度の小さい岩壁が重力変形によって不安定化するプロセスを確認した.杓子岳の天狗菱北側の大規模な崩落までの削剥過程は,①卓越する節理面によって切り取られた大きな岩盤ブロックが,細かい節理や風化による岩盤劣化によって下部を削剥されてオーバーハングする,②節理に沿った谷側へのトップリング(後背亀裂の拡大)やスラビングによる鉛直方向の不連続面の拡大によって不安定化し,やがて崩落する削剥過程であることが推察された.本研究で得られた研究成果を国内の学会において発表し,学術誌に投稿した.
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