研究課題/領域番号 |
22J12417
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
磯野 俊仁 新潟大学, 医歯学総合研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 肺炎球菌 / 上皮成長因子受容体 / 好中球エラスターゼ / 組織修復 |
研究実績の概要 |
2022年度は,上皮成長因子受容体(EGFR)を分解する宿主因子の同定および肺炎重症化との関連について解析した. 好中球エラスターゼは,肺炎球菌性肺炎において誘導される宿主由来プロテアーゼの一つである.組換えEGFRにエラスターゼとエラスターゼ阻害剤を添加したところ,組換えEGFRの分解が抑制された.次にエラスターゼが肺胞上皮細胞株A549細胞に発現するEGFRを分解するか解析した.エラスターゼを作用させたA549細胞では,エラスターゼを作用させていない細胞と比較してEGFR量が有意に減少した.一方で,エラスターゼとともにエラスターゼ阻害剤を作用させた細胞では,エラスターゼのみを作用させた細胞と比較してEGFR量が有意に増加した.しかし,エラスターゼはA549細胞におけるEGFR遺伝子の転写活性に影響を及ぼさなかった.これらの結果からエラスターゼがA549細胞に発現したEGFRを分解することが示唆された.続いてエラスターゼを作用させたA549細胞にEGFRのリガンドである上皮成長因子を添加したところ,エラスターゼを作用させていない細胞と比較して,EGFRおよび下流シグナルの活性化が抑制され,細胞増殖も抑制された.一方でエラスターゼとエラスターゼ阻害剤を同時に作用させた細胞では,EGFRおよび下流シグナルが抑制される程度はエラスターゼのみを作用させた細胞と比較して小さかった.また,細胞増殖が抑制される程度も小さかった.最後に,エラスターゼによるEGFR分解についてin vivo解析を行った.肺炎球菌感染マウスに対してエラスターゼ阻害剤を投与すると,気管支肺胞洗浄液から検出されるEGFR断片が,非投与のマウスと比較して少なかった. 以上の結果から,肺炎球菌性肺炎において誘導される好中球エラスターゼは肺胞上皮細胞のEGFRを分解し,肺組織の修復を阻害することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,以下の3点からEGFRの分解と肺炎重症化との関連を細菌および宿主因子の両側面により明らかにすることを目標として申請した. (1)EGFRを分解する肺炎球菌または宿主因子の同定. (2)EGFR分解による細胞機能変化の解析. (3)動物モデルを用いた肺炎重症化とEGFRの関連性の解析. 2022年度はEGFRを分解する因子として宿主の好中球エラスターゼを同定した.エラスターゼによるEGFRの分解が肺胞上皮細胞におけるEGFRおよびその下流シグナルの活性化を抑制することを示した.また,エラスターゼはEGFRリガンドである上皮成長因子による肺胞上皮細胞の増殖を抑制することを示した.肺炎球菌性肺炎モデルマウスを用いた解析では,エラスターゼ阻害剤がEGFRの分解を抑制することを示した.これらの結果をまとめた英語論文を2022年12月に投稿した.現在は,査読を受けた当該論文の修正を行っている.したがって宿主因子によるEGFRの分解について目標(1)~(3)を達成できている.肺炎球菌因子によるEGFRの分解については, EGFRを分解する因子の同定に向けた予備実験に着手することができたため,おおむね順調に進展していると自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験において,肺炎球菌の培養上清を組換えEGFRに作用させたところ,組換えEGFRの分解を認めた.この結果から肺炎球菌プロテアーゼがEGFRを分解したと推察した.2023年度はEGFRを分解する肺炎球菌プロテアーゼを同定し,EGFR分解による肺炎重症化との関連について解析する. 具体的には,まず各種プロテーゼ阻害剤の存在下で組換えEGFRに肺炎球菌の培養上清を作用させ,EGFRの分解について解析する.本実験によりEGFRの分解が肺炎球菌のプロテアーゼによるものであることを示すとともに,EGFRを分解する肺炎球菌プロテアーゼの候補を絞り込む.そして絞り込んだプロテアーゼの組換え体によるEGFRの分解について解析し,EGFRを分解する肺炎球菌プロテアーゼを同定する.次に肺胞上皮細胞およびマクロファージに同定した肺炎球菌プロテアーゼの組換え体もしくは同プロテアーゼの活性中心に変異を導入した組換え体を作用させ,EGFRおよび下流シグナルの活性化について解析する.肺炎球菌の野生株,同定したプロテアーゼを欠損させた肺炎球菌株ならびに変異復帰株を細胞に感染させ,増殖能および貪食能に関する解析も行う.最後に,肺炎球菌の野生株もしくはEGFRを分解する因子を欠損させた肺炎球菌をマウスに感染させる.感染から24時間後に肺胞洗浄液,血液ならびに肺組織を採取し,組織障害や組織リモデリング関連する分子の発現とともに,各種感染マーカーの変化をwestern blotting, ELISA, および免疫染色により解析する.さらに, 肺炎球菌野生株を感染させたマウスへEGFRを分解する肺炎球菌プロテアーゼの活性中心に対する抗体を投与し,経皮的動脈血酸素飽和度ならびに生存率を非投与群と比較する. 一連の解析により,肺炎球菌がEGFRを分解することで肺炎重症化を引き起こすメカニズムを解明する.
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