研究課題
肺炎の主な起因菌である肺炎球菌は,抗菌薬への耐性化が進行し,治療が困難となっている.そこで,肺炎球菌性肺炎の重症化機序を解明し,それに基づく新規治療法の開発が緊要と考えた.予備実験により,肺炎球菌感染マウスの肺胞洗浄液中に宿主の上皮成長因子受容体(EGFR)の断片を検出した.EGFRは細胞増殖を制御する膜タンパク質であり,通常細胞外に遊離しない.そこで肺炎球菌または肺炎で誘導される宿主の因子がEGFRを分解することで,EGFRとリガンドの結合が阻害され,肺組織修復が遅延するという仮説を立て,解析を行った.その結果,EGFRを分解する因子として宿主の好中球エラスターゼを同定した.エラスターゼによるEGFRの分解が肺胞上皮細胞におけるEGFRおよびその下流シグナルの活性化を抑制することを示した.また,エラスターゼはEGFRリガンドである上皮成長因子による肺胞上皮細胞の増殖を抑制することを示した.肺炎球菌性肺炎モデルマウスを用いた解析では,エラスターゼ阻害剤がEGFRの分解を抑制することを示した.一方で,肺炎球菌はEGFRの細胞外ドメインをアミノ酸配列レベルで分解することなく,同受容体の分子量を低下させることが示された.EGFRの分子量が低下するメカニズムとして,肺炎球菌が分泌するグリコシダーゼがEGFR細胞外ドメインの糖鎖修飾を分解する可能性が考えられた.そして肺炎球菌によるEGFRの分子量低下は、EGFRを介した細胞増殖を阻害することが示された.以上の結果から,肺炎球菌は好中球からエラスターゼを漏出させ,漏出したエラスターゼはEGFRを分解する.最終的に肺炎により損傷した肺組織の修復を遅延させることが示された.また,肺炎球菌が分泌するグリコシダーゼはEGFRの糖鎖修飾を分解することで,肺胞上皮の修復を阻害すること示唆された.
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (3件)
Microbiology and Immunology
巻: 68 ページ: 155~159
10.1111/1348-0421.13117
iScience
巻: 27 ページ: 108798~108798
10.1016/j.isci.2024.108798
Journal of Biological Chemistry
巻: 299 ページ: 104760~104760
10.1016/j.jbc.2023.104760
Microbiology Spectrum
巻: 11 ページ: e00148-23
10.1128/spectrum.00148-23
Microorganisms
巻: 11 ページ: 2969~2969
10.3390/microorganisms11122969
巻: 68 ページ: 23~26
10.1111/1348-0421.13103