研究課題/領域番号 |
22J15667
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
茂木 大知 新潟大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 河川の水理 / 計測 / 模型実験 / 数値解析 |
研究実績の概要 |
当該年度の研究では,河川水理における二次元計測手法の確立を目指して,模型実験における二次元計測手法の開発を行なった.また,カルマンフィルタの実装の前段階として,河川水理を対象とした数値解析の不確実性についても検証を行った. 模型実験では,当該年度の開始直前に計測手法に関する論文(DoI:10.1063/5.0085574)が出版された.この計測装置は,その測定原理からStream Tomography(ST)と名付けられ,水理模型実験における通水中の水面と底面を同時に非接触で計測するもので,計測対象やその時間及び空間の計測密度に新規性が認められた.そこで,当該年度においては,当分野における初めて入手可能となった観測ビッグデータに基づいて,河川水理の機構解明について研究を行なった.具体的には,大半の国内河川の底面において観測される砂州と呼ばれる幾何学形状の発生・発達過程を対象とした実験を行い,その観測データからこの過程が定量的な指標に基づいて3段階に区分できることを示した.また,この区分のそれぞれにおいて現象を支配する物理機構が異なることが示唆され,その予測計算等に用いるモデルの選択に具体的な指標を与えることが期待される.この成果は,Physics of Fluids(DoI:doi.org/10.1063/5.0128760)にて発表した. 河川の水理は非線形方程式で支配される現象であり,その決定論的な数値解析には非周期的な挙動に伴う不確実性を内包する.そこで,初期値を微小に変化させた2条件300メンバーのアンサンブル解析を実施した.その結果,河川の水理は初期値に対して鋭敏に反応することが確認され,現象の妥当な予測には,気象分野と同様にある程度のアンサンブル解析が必須であることが示された.こちらの成果については,現在発表に向けて準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の構想段階では,模型実験及び実河川において,信頼性の高い新たな計測手法の開発を行うものであった.しかし,模型実験における計測手法の構築により,当該分野で初めての観測ビッグデータが入手可能となり,研究の方向性はその解析に自然と向かっていった.本構想において開発されたStream Tomography(ST)による計測データは,既往研究において構築されてきた理論解析や数値解析の妥当性検証に威力を発揮し,河川水理に特徴的な水深-水面・底面の空間分布の対応関係を定量化した.また,これまで演繹的に行われてきた水理のモデル化について,計測結果に基づいた帰納的なプロセスによるモデルの検討が可能と期待される. 上記を鑑みて自己評価を行うと,良い意味で本研究課題は当初予期していない事態となっており,想像していなかった結果を生み出している.河川水理の計測において,非常に大きな問題の一つに,分野において計測対象の整理が十分でない問題がある.本研究では,これまで計測不可能であった水面や底面の幾何学形状を高密度に計測することにより,水理の理解の深化が自然と促された.この理解の深化は,新たな計測対象の整理に繋がる意味で大きな意義を持つものである.そのため,本研究におけるここまでの進捗状況の評価区分は(1)とした.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,2022年度の研究成果によって,模型実験における計測結果から,河川水理における現象理解を深化した.そこで,2023年度においては,更なる現象の理解に向けた模型実験を実施し,河川水理において定量化が必要な量についての考察を主題とする.また,河川水理の不確実性の定量化を行い,河川計画への基礎資料を提供することを目標とする.それと同時に,実河川におけるマイクロ波レーダーによる洪水時の観測データの集積体制が整いつつあるため,模型実験から得られた新たな知見に基づき,レーダーデータの解析による実河川を対象とした二次元観測手法について研究を行う.
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