研究課題/領域番号 |
22J15045
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
畠山 幸太 長岡技術科学大学, 工学(系), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 乾燥 / 分散液 / 体積分率 / 亀裂 / drying front / 塗布 / 液膜 |
研究実績の概要 |
本研究は単純なナノ粒子分散系から可塑性などを持つより複雑な系までを用いた液膜形成における塗布・乾燥現象を解明することを目的としている.①開発・確立に取り組んできた体積分率分布測定手法が適用可能な範囲の解明,②内部状態が異なる懸濁液に往復塗布を与え作成した膜に対する乾燥の影響解明,③より複雑な物質の乾燥現象における知識・手法等の取得に取り組んだ.体積分率の上昇に伴い透過光強度比が単調増加する傾向は,粒子径30nm程度までであれば撮影媒体や液膜の状態によらず得られることが分かった.ここで得られた校正式を用いて乾燥過程における体積分率分布変化を観察すると,分散液が高い初期体積分率,大きい粒子径を持つほどdrying front付近における体積分率が高くなる傾向を示した.しかし,本測定手法においては粒子径が30nm程度以上になると発生する散乱が無視できない程度になり,測定精度が保証できないことが明らかとなった.また,分散状態の異なる懸濁液を用いて,ガラス基板上に滴下したのちに往復塗布を与えて乾燥させ膜を形成すると,良い分散状態を持つサンプルでは均一な膜が得られることが分かった.その傾向は往復の条件を変化させても同様であった.乾燥に伴って分散状態が良化するようなサンプルにおいては,膜形成後に不均一だったものが乾燥過程で均一になる様子が観察された.よって,サンプルの分散状態が乾燥膜の均一性に大きな影響を与えることが示唆された.以上に加えて,英国のケンブリッジ大学のRouth教授の研究室に留学を行い,ポリマーの乾燥にかかわる知識・技術の習得を行った.Latex polymerに含まれるZnOなどの状態が変化することで形成膜の均一性やその引張強さが変化することを見出した.加えて,サンプルを塗布する基板の材質や表面粗さが均一性などへ影響を与えることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体積分率分布測定手法の適用範囲に関して実験を行ってきたが,現在の手法の状況では分散液の粒子径が30nm程度以下であることが重要であることが分かった.小さな粒子径を持つサンプルでは体積分率の増加に伴い透過光強度比が単調増加する傾向が得られ,液膜厚さが200μm程度まで確認された.しかし粒子径が大きくなると散乱が大きく発生し,増加傾向が見られなくなる.測定可能な条件において,体積分率分布変化をデジタルカメラおよび光学顕微鏡によって測定した.大きな粒子径および高い体積分率になると,drying frontへと粒子がより集合すること,上昇の傾きが緩やかになることが分かり,これが最終堆積状態と関連すると考えられる.分散液膜を塗り広げ形成しても,ガラスにより閉じ込め形成した場合にも,粒子径によらずこれらの傾向が得られた.また,より複雑なサンプルにおける乾燥現象を理解するために分散状態の良い・悪いサンプルを用意し,それらに往復塗布を与え作成した膜の乾燥を観察・評価した.ここでは画像をRGB値やHSB値に分けて,それらが時間によってどのように変化するかを算出した.分散状態の良いサンプルでは塗布後から乾燥膜形成まで均一性を保っていることが分かった.一方で分散状態の悪いサンプルではその過程において常に均一性が劣っていた.さらには亀裂が発生する様子も観察された.乾燥に伴い分散状態が良化するサンプルでは,均一性も乾燥により良化した.これらは平滑なガラス基板上で見られたが,凹凸のであるプラスチック基板では明確な差は確認されなかった.またlatex polymerを用いて乾燥膜を作成すると,内部に含まれるKOHやZnOなどの割合によって均一性や引張強さが変化することを見出した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において,分散液の粒子径が乾燥中の粒子流動や最終堆積状態に影響を与えていることが分かった.これらに加え,測定可能な粒子径を持つナノ粒子分散液のpH等を変化させ,乾燥中に発生する粒子移動を評価する.pHが低いときには均一に分散し,高いときにはよりdrying frontへと集まることが報告されているが,ナノ粒子が実際にどのような流動をしているかは明らかになっておらず,これを過渡的に評価することを目指す.さらには基板の表面粗さを変化させた際の乾燥に伴う流動変化に関しても測定する.他グループの研究によると,粒子径と表面粗さの大小関係によって流動・堆積状態が変化することが報告されている.本研究の懸濁液を用いた往復塗布実験の結果においても同様の傾向が得られている.本研究はそれらの条件をフレキシブルに変化させることができ,さらには過渡的な測定が可能であるという特徴を持っている.これらによって最終堆積状態を幅広く変化させることができ,その際の内部流動を新たに観察することで,これらの関係性を実験的に解明する.また分散状態の異なるようなサンプルの塗布膜形成において,乾燥だけでなく塗布面を同時に観察することに取り組む.サンプルの粒子径や可塑性に加え塗布時の間隙を変化させ,生じるせん断の影響を詳細に解明すること,および乾燥膜に与える影響を評価する.これらの実験に用いる複雑なサンプルの乾燥過程の観察においては,体積分率分布測定手法をそのまま適用することは困難であることが分かったため,並行して評価する手法の開発にも取り組む.乾燥に伴い発生する流動と最終堆積状態の関係性を解明することで,単純系から複雑系までを鑑みた乾燥力学の構築を目指す.
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