本研究は,単純なナノ粒子分散液からラテックスなどより複雑な系までを対象とし,フィルム形成における塗布・乾燥現象と堆積状態との関係性解明を目的とした. デジタルカメラや光学顕微鏡を用いて,ナノ粒子懸濁液の体積分率分布を測定する手法を開発・構築した.この手法は,粒子径が30nm程度まで適用可能であり,乾燥中に発生する濃度変化を2次元で測定することが可能である.本手法により体積分率分布変化を測定すると,発生するdrying front付近において体積分率が上昇し,63%程度まで増加することが示され,これは理論値および過去のSAXSやIRによる測定値と同等であった.加えて本手法は,基板の粗さや温度を変化させた際の粒子流動を測定することが可能である.基板粗さを与えると,フィルムに発生する亀裂間隔が減少するが,この要因は見かけ上の濃度低下よりも亀裂発生のための必要応力値の低下が支配的であることを強く支持した.基板温度が増加すると中心付近の体積分率が大きく減少するが,時間経過に伴って増加する条件とそうでない条件があることが分かった.この遷移は,外縁側へと向かう流れと中心へと向かう流れの大きさで決定されていることが分かった.基板や乾燥条件が異なる条件下においても,2次元濃度変化を簡便に測定・評価することが可能となり,ナノ粒子分散液の乾燥現象のより詳細な理解に貢献すると考えられる. これに加えて,ラテックスの凝固剤浸漬プロセスを用いたフィルム形成において,陽イオンの電荷密度の大きさが架橋やフィルム強度に直接影響することを示した.しかし,より高い電荷密度を持つ硝酸アルミニウムの場合には,フィルム形成するための温度条件を変更する必要があること,フィルムが非常にもろくなることが分かった.これらの結果は,より良い強度や伸びのラテックスフィルムを作製する際の材料選択に大きく寄与することが期待される.
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