研究課題
本研究では、昼行性げっ歯類であるナイルグラスラットを用いて、昼行性種における体内時計制御機構の研究を進めている。昨年度までの研究により、ナイルグラスラットの肺線維芽細胞に由来し、時計遺伝子(Bmal1)発光レポーターを安定的に発現する細胞株(GrLBmal1-luc)を樹立した。本年度は、本細胞株においてアドレナリンが体内時計調節作用を持つことを見出した。具体的には、Ca2+イメージングにより、アドレナリンとセロトニンがともに細胞内Ca2+濃度を上昇させる作用を持つことを明らかにした。次に、発光レポーターアッセイにより、アドレナリンがBmal1転写リズムの位相を変化させるのに対してセロトニンはこのような作用を示さない結果が得られた。さらに、細胞内シグナル経路を解析した結果、cAMP-CREB経路が時計遺伝子の発現制御に強く関わることが示唆された(2023 Annual Meeting of the Taiwan Neuroscience Societyポスター発表、日本睡眠学会第45回定期学術集会・第30回日本時間生物学会学術大会 合同大会 ポスター発表)。これに加え、GrLBmal1-lucは肺線維芽細胞に由来し、COVID-19重症患者における肺線維症の原因遺伝子として最近報告されたCthrc1遺伝子を高発現することが判明したため、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の体内時計に対する影響の解析を試みた。その結果、本細胞株にSARS-CoV-2(オミクロンXBB1株)を感染させることにより、時計遺伝子Bmal1転写リズムの長周期化やアドレナリンの位相調節作用が乱れることを明らかにした。COVID-19の後遺症の一つとして倦怠感や睡眠障害が報告されており、本研究により示されたSARS-CoV-2感染による時計遺伝子転写リズムの異常がこれらの原因である可能性が考えられる。本研究結果は現在論文投稿に向け準備中である。
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