研究課題/領域番号 |
22J11998
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
宮西 肇 富山大学, 医学薬学教育部, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | うつ病 / ストレス / セロトニン / GABA / 背側線条体 / 縫線核 |
研究実績の概要 |
うつ病の発症メカニズムには不明な点が多く、既存の抗うつ薬(セロトニン神経の末端に作用する)は、3割の治療抵抗性患者に効果を示さないことから新規治療戦略の確立が切望されている。本研究では、うつ病の発症原因との関係についての情報が少ない背側線条体に着目し、うつ病病態の発症に大きく関与しているストレス感受性の調節メカニズムを明らかにすることを目的とした。すでに背側線条体のShati/Nat8l (N-アセチル基転移酵素) がストレス脆弱性の形成に関与することを見出しており、その詳細な病態メカニズムを解明し、将来的には、治療や薬の創生に繋がる成果を上げることを目標としている。 昨年までの研究活動で、背側線条体のセロトニンの制御がストレスに対する感受性を調節することを示唆するデータを得ていたことから、今年度は、脳全体のセロトニン神経系の起始核である縫線核に着目した。人工受容体と人工リガンドを使用するDREADシステムを用いて、背側線条体-縫線核間神経ネットワークの特異的な制御を試みた。縫線核から背側線条体にはセロトニン神経が投射されているため、セロトニン神経特異的に人工受容体を発現できるベクターを使用した。人工リガンドを投与し、縫線核⇒背側線条体セロトニン神経を特異的に活性化させたマウスは、ストレス暴露後でも、うつ様行動を示さず、ストレス抵抗性が観察された。以上の実験結果から、背側線条体Shati/Nat8lの下流に縫線核のセロトニンシステムが存在しており、その制御により背側線条体のセロトニン遊離量が変化し、ストレス感受性が調節されていることが示唆された。 セロトニン神経末端において作用し、シナプス間隙でセロトニン量を増加させる既存の抗うつ薬とは異なり、根本の縫線核内のセロトニン神経系システムを標的にすることが、新規うつ病治療戦略になり、新薬開発に繋がると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
背側線条体のShati/Nat8l の下流にBDNF (脳由来神経栄養因子) が存在することも今までに報告しており、本課題では初めに、背側線条体におけるBDNFのストレス感受性に対する機能を明らかにする予定であった。そこで、Cre/loxPシステムを用いて線条体特異的BDNFノックダウンマウスの作成を試みた。理化学研究所のバイオバンクから凍結精子を購入し、体外受精にてBDNF floxマウスを繁殖させた。real-time PCR法にて本マウスの脳内BDNF mRNA量を測定したところ、Creベクターを注入していない時でも、BDNF mRNAの発現低下が観察された。また、攻撃性が非常に高く、行動実験に用いることは難しいと判断した。BDNF floxマウスを新しく作り直すことは所属研究室では難しく、今後は、BDNFの上流に存在し、すでに本研究室で確立されているShati/Nat8l遺伝子改変マウスを用いることにした。これらの実験計画変更もあったが、ストレス感受性に対する縫線核⇒背側線条体セロトニン神経機能は明らかにすることができ、総合的に本研究は全体を通しておおむね順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度までに縫線核から線条体へ投射するセロトニン神経の機能を明らかにした。今後は、背側線条体から縫線核へ投射が観察されているGABA神経のストレス感受性に対する機能を明らかにする予定である。 アデノ随伴ウイルスベクターを用いて、GABAニューロン特異的に人工受容体を発現する技術を確立する(addgeneにて人工受容体遺伝子が組み込まれたプラスミドベクターを購入し、共同研究者にGABAニューロン特異的に発現するプロモーターの挿入を依頼し作成中)。GABAニューロンに人工受容体が発現しているかどうか組織免疫染色法を用いて確認し、人工リガンドの投与によって、脳内におけるGABA遊離量が増加すること確認する。ベクターが機能することを確認したうえで、マウスの背側線条体にベクターを投与し、投射先である縫線核に人工リガンドを投与することで、縫線核におけるGABA遊離量を増加させ、社会的敗北ストレスを暴露した後に行動試験によるうつ様行動の解析(社会性行動試験、ショ糖嗜好性試験、強制水泳試験等)を行うことで、ストレス感受性への寄与を検討する予定である。 所属研究室では、低分子化合物ライブラリーの中から、Shati/Nat8lの発現を抑制する化合物の探索を行っており、本研究で明らかにする一連のメカニズムと連動した抗うつ効果の発現を確認する予定である。さらに、うつ病以外にも脳内のセロトニン異常が病態に重要な役割を担っている不安障害、パニック障害、強迫性障害、統合失調症の治療においても、縫線核のセロトニンシステム制御の応用することも期待される。
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