研究課題/領域番号 |
21J20172
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
橋内 咲実 金沢大学, 医薬保健学総合研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 臓器連関 / 迷走神経 / アセチルコリン / インスリン |
研究実績の概要 |
迷走神経は、脳と末梢臓器をつなぐメカニズムとして重要な役割を担っている。糖代謝恒常性の中心的役割を果たす臓器である膵臓においても、膵内分泌が迷走神経を介した制御をうけることが知られている。しかし、迷走神経を介した、脳・膵連関による糖代謝恒常性の役割については明らかではない。本研究では、迷走神経を介した、脳・膵連関における糖代謝恒常性維持の役割の解明を目的とした。 迷走神経の膵内分泌における役割を検討するため、人工リガンド (CNO;Clozapine-N-Oxide)のみに応答し、特定の神経活動を操作する (DREADD) 技術により作出した、迷走神経操作マウスを用いた。当該マウスへのCNO投与により、迷走神経活動の活性化及び不活性化を行い、迷走神経性の膵内分泌制御作用を検討した。 迷走神経活動を活性化させたマウス (hM3Dq) では、対照群と比し、インスリン・グルカゴン分泌が促進し、血糖値は上昇した。迷走神経活動活性化によるインスリン分泌の上昇は、CNO投与前の血糖値と有意な正の相関を示した。迷走神経活動を不活性化させたマウス (hM4Di) では、インスリン分泌の低下とグルカゴン分泌の上昇を認め、血糖値が有意な上昇を示した。迷走神経はコリン作動性・ペプチド作動性を有している。これらの作用を確認する為、hM3Dqマウスのアセチルコリン作用を阻害したところ、インスリン・グルカゴン分泌が有意に低下した。一方、ペプチド作用の阻害では、インスリン・グルカゴン分泌の低下を示さなかった。以上のことより、迷走神経による膵内分泌制御は、アセチルコリンによる作用であることが示唆された。肥満・インスリン抵抗性では、迷走神経性の膵内分泌制御が破綻することが知られているため、今後、肥満・インスリン抵抗性における検討を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
迷走神経操作マウスを用いて、迷走神経の膵内分泌制御における役割について検討を行ってきた。hM3Dqマウスにおいて、当初予定していたCNO濃度で投与すると、交感神経活動も活性化されることが確認された。そこで、CNO濃度の検討を行い、当初予定していた濃度の10分の1が最適であることを見出した。hM4Diマウスでは、交感神経活動の変化が認められなかったので、当初予定していた濃度で、その後の実験を行った。hM3DqマウスへのCNO投与では、インスリン・グルカゴン分泌が共に促進し、血糖値は上昇を示した。さらに、低血糖時には、迷走神経性のインスリン分泌促進が認められず、迷走神経活動活性化によるインスリン分泌上昇率とCNO投与前の血糖値で有意な正の相関を示すことを明らかにした。hM4Diマウスでは、インスリン分泌の低下とグルカゴン分泌の上昇を認め、血糖値が有意に上昇した。迷走神経は、コリン作動性・ペプチド作動性を有する。上記で見られた、迷走神経性のインスリン・グルカゴン分泌が、どの作用によるものかをhM3Dqマウスを用いて検討を行った。アセチルコリンを阻害したところ、迷走神経活動活性化により認められたインスリン分泌・グルカゴン分泌の促進が消失した。一方で、ペプチド作用を阻害したところ、阻害していない群と同様なインスリン分泌・グルカゴン分泌促進が認められた。以上のことから、迷走神経による膵内分泌制御に、アセチルコリンが重要であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
迷走神経を介した脳・膵連関において、肥満・インスリン抵抗性では、その破綻が知られている。今後は、迷走神経操作マウスに対し、6週間の高脂肪食負荷を行い、肥満・インスリン抵抗性モデルの作出をする。当該マウスを用いて、CNO投与を行い、肥満・インスリン抵抗性における、迷走神経による膵内分泌制御の役割と破綻メカニズムの解明を進めていく。
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