研究課題
薬物-飲食物間相互作用による薬物の血中濃度変動は、薬物の性質に対する飲食物の影響に基づく多彩な交絡因子によって生じる。本研究では、飲食に伴う消化管生理環境の変化(浸透圧、pHなど)や薬物固有の性質 (膜透過性、溶解性など)を複合的に解析し、消化管内環境を反映したダイナミックな数理モデルの構築とそれに基づく薬物-飲食物間相互作用の定量的予測法の確立を試みる。本年度は、飲食後の消化管内水分変動とそれに伴う薬物吸収変動の定量解析を目的とした詳細な検討を行った。まず、フルーツジュース(FJ)の高張性を構成する糖類や成分の吸収が及ぼす浸透圧変動に着目し、ラット消化管における糖吸収に依存した消化管内水分変動の評価を行った。ラット消化管を用いたin situ吸収実験により、糖類の吸収に伴い浸透圧および水分変動が観察され、結果として薬物吸収に影響を及ぼす可能性が示された。ラットin vivo経口投与実験においても同様の傾向が観察された。以上より、溶液浸透圧に起因した薬物の吸収低下は、初期浸透圧のみならず、高張性を構成する成分自体の吸収とそれに伴う浸透圧変動を考慮する必要があると考えられた。一方、吸収低下を巡る薬物-FJ間相互作用においては、元来、FJ成分によるOATP2B1の阻害が関与していると考えられている。そこで次に、OATP2B1の基質薬物を用いて、浸透圧とOATP阻害メカニズムの分離評価を試みることとした。その結果、ラット消化管において高張糖液併用下では浸透圧効果のみが観察された一方で、FJ併用下では、含有成分によるOATP阻害効果を加えた複合的な効果が観察された。現在、本結果に対する定量的な分離評価を試みている。以上より、吸収低下を引き起こす薬物-FJ間相互作用は、FJ構成成分である糖類の吸収とそれに伴う浸透圧変動および消化管内水分変動に起因している可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、飲食を摂取した際に生じる水分分泌が、その高張性を構成する糖類や成分の吸収に伴い複雑に変化する可能性に着目し、変動する消化管内浸透圧及び水分挙動を解析することで、その薬物吸収への影響に関する定量的解析を試みた。本検討に対してはおおむね順調に進展しているものの、現在検討を試みている食事成分による吸収阻害効果と溶液浸透圧に起因した薬物の吸収低下に対する分離評価については未だ完了には至っておらず、次年度も引き続き検討を行う必要がある。
まず、昨年度の検討項目であった食事成分による吸収阻害効果と溶液浸透圧に起因した薬物の吸収低下に対する分離評価を引き続き行う。また、当初予定通り、飲食後の消化管内水分動態を考慮した薬物相互作用予測を行うため、薬物固有の性質である「膜透過性」および「溶解性」への影響(効果の程度)評価を試みる。実験的に算出した膜透過速度および溶解度を基に幅広い膜透過性 (高膜透過性・低膜透過性)および溶解性 (高溶解性・低溶解性)を有する多彩なモデル薬物を選定し、ラットin vivo経口投与実験により血中濃度推移から薬物吸収変動の程度を評価する。得られた各薬物のパラメータ(膜透過速度、溶解度、血中濃度-時間曲線下面積)および溶液浸透圧を統合的に相関解析することで、薬物固有の性質と浸透圧に起因した薬物-飲食物間相互作用との関連性を評価する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Pharmaceutical Sciences
巻: 111 ページ: 1531-1541
10.1016/j.xphs.2022.01.008
European Journal of Pharmaceutical Sciences
巻: 172 ページ: 1-8
10.1016/j.ejps.2022.106136
Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences
巻: 7:29 ページ: 1-8
10.1186/s40780-021-00212-z