研究課題/領域番号 |
21J40098
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
辻 知陽 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 自閉症 / 自閉症モデルマウス / バルプロ酸 / オキシトシン / 社会性行動障害 / カルノシン |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(ASD)の中核症状とされている社会性を改善するような薬剤はこれまで見つかっていない。社会性行動に広く関与しているペプチドホルモンであるオキシトシン(OT)が治療薬として注目されているが、OTの頻回投与での改善効果には一貫した知見が得られておらず、臨床応用には至っていない。そこで、我々は、内在性OTの分泌を促す分子の発見が、社会性障害改善効果をもたらす治療薬となりうるのではないかと考えた。本研究では、先行研究で得られている知見からOT分泌への関与が示唆されるカルノシンの社会性機能改善分子機序の解明にむけた研究を行うことにした。ジペプチドであるカルノシンの投与効果について以下の研究を計画した。一つ目に、カルノシンによる種々のASDモデルマウスの社会性行動障害の改善効果及びその投与経路についての検証、二つ目に、カルノシンによるOT分泌メカニズムの解明、三つ目に 類似ペプチドアンセリンの効果の検証を行う予定であった。 今回、ASDモデルマウスであるCD157遺伝子ノックアウト(CD157KO)マウスの社会性行動障害がカルノシンの長期投与により回復することを見出した。また、CD157KOマウスの視床下部OT神経及び、社会性行動に関与する脳部位の神経活性化マーカーであるc-Fosの発現がコントロール群と比べ低く、カルノシン投与群において上昇することを確認した。さらに、CD157KOマウスのカルノシン投与群のオキシトシン分泌が上昇していた。これらの結果から、CD157KOマウスの社会性行動障害がOT神経回路の活性化及びOTの分泌上昇により改善することを示唆した論文を発表した(文献リスト)。引き続き、他のASDモデルマウスにおいても(バルプロ酸胎内暴露マウス)、カルノシン投与により社会性行動障害が改善するか否かを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、ASDモデルマウスであるCD157遺伝子ノックアウト(CD157KO)マウスの社会性行動障害がカルノシンの長期投与により回復することをつきとめた。また、CD157KOマウスの視床下部OT神経及び、社会性行動関与脳部位の神経活性化マーカーであるc-Fosがコントロール群と比べ低く、カルノシン投与群が上昇することを確認した。さらに、CD157KOマウスのカルノシン投与群のオキシトシン分泌が上昇していた。これらの結果から、CD157KOマウスの社会性行動障害がOT神経回路の活性化及びOTの分泌上昇により改善することを示唆した論文を報告した。また、本研究員は、責任著者として、自閉スペクトラム症モデルマウスに関する原著論文を他にも公表している(文献リスト)。離乳前の仔マウスの社会性行動障害は、母子分離の際に発する超音波発生を検出することで解析できる。そこで、環境因子自閉症モデルマウスであるバルプロ酸胎内暴露(VPA)マウスの超音波発生パターンを解析し、一部のパターンの発生頻度がオキシトシンで回復することを発表した。この論文から、VPAマウスにおける社会性行動障害は、オキシトシン投与により回復することを示唆した。
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今後の研究の推進方策 |
オキシトシン(OT)の分泌には細胞内カルシウム濃度の上昇と活動電位の発生が必要であることが知られている。そこで、カルノシンがOTニューロンに直接作用するのか否かを調べるために、OTニューロンの初代培養を確立し、カルノシン刺激による細胞内カルシウム濃度上昇を検出する実験及び、in vivo電気生理学を用いて、カルノシンが直接OTニューロンの活動に関与するか検討する計画を立てている。後者の実験は、英国Edinburgh大学生理学教室との共同研究をもって行う予定である。 また、今年度は、環境因子・自閉スペクトラム症モデルマウスであるバルプロ酸胎内暴露マウスにおける社会性行動障害に対するカルノシンの効果及び、オキシトシンシグナル系神経回路の関与を検討する。
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