研究課題/領域番号 |
22J21507
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中園 優也 金沢大学, 医薬保健学総合研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | 胆汁中排泄 / トランスポーター / 肝臓 / 透過試験 / 薬物動態 |
研究実績の概要 |
本研究では申請者が独自に樹立した開放系胆管腔を有する肝細胞培養系(icHep)を用いた透過試験による化合物のヒトin vivo胆汁中排泄クリアランス予測評価システムの樹立を最終目的としている。透過試験による経細胞輸送評価を実施するためには細胞間が密着した隙間のない肝細胞連続単層の形成が必要である。したがってこのような条件を満たす肝細胞の培養条件を探索した。検討の結果、新鮮ヒト肝細胞キメラマウス由来のPXB-Cellsを肝細胞の増殖を促進する培地で培養することで、隙間のない肝細胞連続単層が形成可能となった。この連続単層は細胞間隙マーカーTD4の最小限の透過性を示し、透過試験に適用可能な密着結合能を有していた。加えて、icHepにおける広範な肝臓取り込みトランスポーター及び薬物代謝酵素の活性が維持されていることを確認した。icHepを用いた胆汁中排泄評価が可能か検討するために胆汁中排泄トランスポーターの各典型基質を用いた透過試験を実施したところ各典型基質の胆汁側への一方向性輸送が示され、icHepを用いた透過試験による胆汁中排泄評価が可能であることが示された。今後の研究方策として①icHep透過試験系における胆汁中排泄活性の向上、②肝細胞間密着結合を強化する培養条件の探索、③ヒトin vivo胆汁中排泄クリアランス予測手法の確立を主軸に置き、胆汁中排泄のより精密な評価手法構築を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では透過試験による胆汁中排泄評価が可能な新規肝細胞培養システムの樹立を目指し、以下に示す詳細な研究進捗を得ている。 化合物の胆汁中排泄評価には胆管腔へ排泄された化合物を経時的に回収し定量する必要がある。しかし、胆管腔は肝細胞間に閉鎖系として形成されるため、胆汁サンプルの回収は困難である。申請者は胆管腔形成における密着結合の役割に着目し、その主要因子であるclaudinを細胞培養器材側から肝細胞へ外因的に作用させ、肝細胞-器材間での密着結合を伴う開放系半胆管腔を有する肝細胞培養系 (icHep)を樹立した。これにより化合物の胆汁中排泄を透過試験を用いた経細胞輸送により評価可能になると期待された。 icHepを透過試験に適用するためにその特徴付けを行った。ヒト肝キメラマウス由来PXB-cellsを用いた構築したicHepは隙間の無い肝細胞連続単層を示し、最小限の細胞間隙マーカーTD4の透過性を示した。加えて、icHepは主要な肝トランスポーターの適切な局在及び薬物代謝酵素活性を維持していることが免疫染色及び活性評価により示された。icHepを用いた胆汁中排泄評価が可能か検討するために胆汁中排泄トランスポーターの各典型基質を用いた透過試験を実施し、各典型基質の胆汁側への一方向性輸送が示された。これにより本研究の達成項目である透過試験による胆汁中排泄評価がicHepを用いて可能であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策として3点を掲げる。①icHep透過試験系における胆汁中排泄活性の向上、②肝細胞間密着結合を強化する培養条件の探索、③ヒトin vivo胆汁中排泄クリアランス予測手法の確立。 ①現状icHepの胆管腔開孔率は全体の3割程度であるため、開孔率向上により胆汁中排泄活性の向上を目指す。方法としてclaudinのコーティングに加え、極性因子としてE-cadherinやJAM-A、足場タンパク質ZO-1などを組み合わせ、コーティング面を擬似細胞膜として機能させることで開孔率が60%以上となる条件を見出す。開孔率は胆管腔マーカーMRP2の染色数を計数することにより評価する。並行して種々の肝細胞培養培地や添加剤を用いて、胆汁中排泄トランスポーター (BSEP, MRP2及びP-gp)の活性が向上する条件を探索する。 ②透過試験による経細胞輸送評価を行う際の前提条件として細胞間隙からの試験化合物の漏出が最小限であることが求められる。したがってicHep透過試験系において強固な細胞間密着結合を形成する培養条件を絞り込む。具体的には密着結合形成を促進することが報告されている化合物 (ケルセチン、コレステロールなど)を添加する、密着結合形成に関与する因子 (ZO-1, claudin-2など)の遺伝子発現レベルを調節することにより最適な条件を探索する。密着結合形成は、複数の細胞間隙マーカーの透過試験を行うことで評価する。 ③項目①及び②で最適化された条件下でicHep透過試験系によりヒトin vivo胆汁中排泄評価が可能か調べるため、in vivoクリアランスが既知の薬物を使用した透過試験を行う。得られたin vitro胆汁中排泄クリアランスから生理学的パラメータ、種々のスケーリングファクター、薬物の肝内取り込み及び代謝過程を考慮し、ヒトin vivo胆汁中排泄過程の外挿手法を確立する。
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