研究課題/領域番号 |
22J22950
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
泉 翔馬 金沢大学, 医薬保健学総合研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
キーワード | 内側前頭前野 / ニコチン / 物体認知記憶 / シナプス可塑性 / ホールセルパッチクランプ記録法 / マウス |
研究実績の概要 |
本研究は、認知機能を司る脳領域である内側前頭前野(mPFC)に焦点を当て、mPFCから他の脳領域への出力を担う神経細胞の活動や、同じく認知機能に関与している海馬からの神経伝達におけるシナプス可塑性に対してニコチンが与える影響を明らかにし、ニコチンによる認知記憶向上メカニズムを解明することを目的としている。 本年度は、電気生理学的手法を用いたマウスmPFCにおけるニコチンによる興奮性増大作用メカニズム、シナプス可塑性制御の検討、および、行動薬理学的手法を用いたニコチンの認知記憶向上作用メカニズムの検討を実施した。電位依存性カリウム(Kv)4.3チャネルには特異的な阻害薬が存在しないことから、shRNAを搭載したAAVベクターを用いてmPFC錐体細胞特異的なKv4.3チャネルノックダウンを実施した。蛍光標識されたAAV感染細胞からホールセルカレントクランプ記録を行い、近傍頻回電気刺激に対する興奮性シナプス後電位(EPSP)の加算を測定したところ、ニコチンのバス適用により、連続刺激に対するEPSPの振幅が全体的に減少した。基準となる一回目の刺激に対するEPSP振幅が変化したことで、加算の程度を正しく評価できない結果となった。一方で、マウスの認知記憶の評価試験である新奇物体認識試験において、mPFC錐体細胞でKv4.3チャネルをノックダウンしたマウスでは認知記憶が増強することが示された。また、ニコチンを慢性投与したマウスのmPFC V層錐体細胞では、連続2回の電気刺激により誘発される興奮性シナプス後電流の振幅比が生理食塩水投与マウスからの細胞と比較して減少しており、さらに、AMPA/NMDA電流比は増加していた。これらの結果から、ニコチン慢性投与によりプレシナプスからのグルタミン酸放出確率の増加と、ポストシナプスでの神経伝達の増強、すなわち、長期増強が誘導されることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、mPFC錐体細胞でKv4.3チャネルをノックダウンしたマウスにおいて物体認知記憶が増強することを明らかにした。さらに、次年度実施予定であった、ニコチンを慢性投与したマウスを用いたシナプス可塑性の検討において、mPFC V層錐体細胞へのグルタミン作動性シナプスに可塑的変化が誘導されることを見いだした。また、mPFCへのKv4.3チャネルに対するshRNA導入は、ニコチンによるEPSP加算増大作用のメカニズム解明に適さず、経路選択的なノックダウンにより解析できる可能性が考えられた。以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
mPFCに直接AAVベクターを注入することでKv4.3チャネルをノックダウンすると、電気刺激誘発性のEPSPが正常に記録できないという問題が生じている。記録細胞に入力するmPFC内グルタミン酸作動性神経の過剰な興奮が原因の一つだと考えられる。この問題を解決するために、逆行性に感染するAAVベクターを用いて、AAV注入部位に投射するmPFC錐体ニューロンでのみKv4.3チャネルをノックダウンし、EPSP加算に与える影響を評価する。標的としては、認知記憶に関与し、mPFCと神経接続のある嗅周皮質を予定している。 また、光遺伝学的ツールを用いて海馬CA1からmPFC V層錐体細胞への入力を選択的に操作し、このシナプスにスパイクタイミング依存性シナプス可塑性(STDP)の誘導を試みる。加えて、ニコチンの慢性投与によりSTDPの誘導が調節されるか否かをシナプス応答(EPSP振幅、ポストシナプス可塑性の指標であるAMPA/NMDA電流比等)を解析することで評価する。
|