研究実績の概要 |
本年度は、当研究室で最近開発した(1Z,3Z,5Z)-ヘプタアリール-1,3,5-ヘキサトリエニル基を有するロジウム錯体から誘導される、多数のアリール基で置換された新規オリゴエン誘導体を合成し、その物性を調べた。 はじめに、上記錯体のロジウム原子をさまざまな官能基で置き換えたオリゴエン誘導体を合成した。1H NMR測定や単結晶X線構造解析から、分子全体がねじれており、軸不斉をもつことが示唆された。そこで各誘導体の光学分割を試みたところ、アクリル酸エステルを導入した誘導体において各エナンチオマーを単離することができた。しかし、この誘導体の軸不斉は不安定であり、室温で容易にラセミ化した。一方で、これらのオリゴエン誘導体が凝集誘起発光(AIE)特性を示すことを発見した。固体状態で効率的に発光する化合物は少ないため、オリゴエン誘導体の軸不斉とAIE特性を組み合わせることで、新たな固体円偏光発光(CPL)材料を開発できると考えた。 そこで、安定な軸不斉をもつオリゴエン誘導体を合成した。上述の構造解析の結果を基に、水酸基とアクリル酸エステルを適切に配置した誘導体を設計・合成し、環化二量化させることで大環状の誘導体を合成した。この誘導体はトルエン中、100 °Cでもラセミ化しないほど安定な軸不斉を持っていることが分かった。この誘導体を光学分割し、CPL測定を行ったところ、glumはおよそ5×10^-4程度と分かり、既存の有機固体CPL材料と同等の物性を示した。 一方で、アミド基を導入したオリゴエン誘導体が、力学的な刺激によって蛍光色が変化するメカノクロミック発光特性を示すことを偶然発見した。他の誘導体ではこの挙動は見られず、アミド基をもつ誘導体に特異的であることが分かった。この発光特性は同一分子でありながらその結晶状態によって蛍光色を変える興味深い現象である。
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