研究課題/領域番号 |
22J10527
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
SONG PENG 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 遺伝的アルゴリズム / エンタルピー / 水素化物超伝導体 / 結晶構造 / 安定相 |
研究実績の概要 |
高いフォノン振動数は、超伝導転移温度の向上に有利である。フォノン振動数はイオン質量の逆数にスケールするので、究極的軽元素たる水素が有利となる。この見立てを背景に、高圧印加で金属化させた圧力誘起の水素化物超伝導体が模索されている。先行研究では、元素種の組合せに関する場合の数が少なく探索範囲の狭い二元化合物にのみ展開されてきた。三元化合物にまで探索を拡げれば、高い転移温度を手にするチャンスは更に増し、実際、そうした物質も発見的に二、三見つかってはいるが、戦略的探索を画策すれば、場合の数は膨大で尻込みを招き、殆ど手がつけられていない。そこで本研究では、機械学習を駆使して、二元探索の範囲を超え、三元水素化物超伝導体でより高い転移温度を実現する超伝導体を見つけ出す試みを展開している。自身の結晶化学的な素養を活かし、固溶の熱力学的安定性、格子の動的安定性の両面が担保された新たな超伝導体を探索している。組成の候補を絞り込めば、それぞれの組成に対して遺伝的アルゴリズムによる結晶構造候補を生成し、圧力依存のエンタルピー値を評価して、比較することで、熱力学的に安定な結晶構造を決定することが可能である。ネックとなる組成候補の絞り込みに対して、三元相図上での安定相出現パターンについて一定の知見を見出しつつあり、これに基づいて物質探索を進めている。研究開始時までに[La/Y系]、[Y/Mg系]の三元水素化物超伝導体の発見に至っていたが、当該研究期間中には更に物質探索を進め、[Mg/Sc系]、[Y/Ce系]、[La/Ce系]について新規の超伝導体を発見した。3種の元素を組み合わせた超伝導体予測は、組み合わせが大量で難しい問題であるが、世界中で精力的に超伝導体探索の競争が繰り広げられる中、データ科学の手法をスパコンシミュレーションと組み合わせて次々と新しい組み合わせの発見が続く快挙となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度中に、計算機資源や研究手順など研究体制を整備した結果、5報の原著論文成果に結びついた(全てQ1-journal。うち4報は筆頭著者)。研究成果の周知・引用も進み、報告者の成果が広く知られるようになり当該方法論を開発しているロシアの研究グループから研究内容の詳細にかかる照会もあり、新たな国際共同研究に繋がった。欧州とのコネクションは更にポーランドの研究者にも広がり、これらとの国際共著論文を投稿済である。新型コロナウイルス感染症の蔓延が長引き、海外出張などの機会を取ることができなかったが、ようやく状況が収束したため、2023年1月以降は積極的に海外出張を企画し、中国・福州の中科院福建物質結構研究所や吉林大学・International Center for Computational Method & Softwareなどで研究成果に関する講演、および、共同研究に向けた議論などを行なった。研究課題としての三元水素化物超伝導体の探索では、[Mg/Sc系]といったどのような組み合わせを採用するかという狙いを正しい打ちどころに定めることが肝要であるが、こうした照準設定に資するような最新の動向を生の情報として面着機会を通じて知ることができた。ここまでの研究成果の周知から、タイ・チュラロンコン大学・物理学科で同様のテーマを精力的に進めている研究者からも研究内容の詳細にかかる照会もあり、新たな国際共同研究に繋がっている。現在、投稿済の筆頭現著論文も2報程度あり、研究室内の後輩メンバーによる参画助力もあって、複数のプロジェクトに良好な進捗が図られている。以上のように、初年度に蓄積した研究成果が新たなネットワークを産み、自身の研究フィールド・研究課題の幅が加速度的に広がってきていると共に、新たな着想にも繋がってきている。以上のことから、当初の計画以上に進展しているものと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は報告者の博士学位最終年度にあたり、9月の博士課程修了に向けて学位論文の取りまとめを進めている。予備審査、本審査に付随した口頭発表機会が増えることから、これらをプレゼン資材を有効活用し、積極的に外部での成果公表機会を設け、海外との協働を広げていく。 新型コロナウイルス感染症の混乱も収束に向かったこともあり、2023年の初夏には再度、中科院福建物質結構研究所への出張を企画している。三元水素化物超伝導体の探索は予定通りに進める一方で、遺伝的アルゴリズムを用いた物質探索の対象を水素化物超伝導体から徐々に広げ、超伝導転移温度以外の物性をターゲットとしたプロジェクトにも挑戦していく。2023年2月から開始された吉林大学との共同研究では、遺伝的アルゴリズムと並立代替される手法として粒子群アルゴリズムを採用した物質探索を行っている。この方策を実装したパッケージでは、バルク体だけでなく表面や界面をも対象とした構造探査を行うことができる。こちらの協働チャネルを活用して対象系のジオメトリに対しても適用可能な幅を広げていく予定である。 第一原理量子モンテカルロ法との共同研究も開拓していく予定である。粒子群アルゴリズムを用いた物質構造探索の課題として高圧下で実現される水素結晶構造の予測が行われていた(所属研究室における別プロジェクト)。これまでの物質探索では密度汎関数法の近似レベルで構造安定性を議論されていたが、水素結晶構造の予測では、要求される近似レベルが厳しく、密度汎関数法のレベルから更に進んで第一原理量子モンテカルロ法でエンタルピーを評価し直した結果、予測が大幅に変更されることがわかっている。こうした問題として、高圧下でのナトリウム結晶構造の予測に関する共同研究が立ち上がっているので、これを題材に当該手法の習得を進める予定である。
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